アシェリー様のお通りだ!

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第二章

 街道に沿って歩き続けて五日目。アシェリー達はようやく石渡り船の出港している街へとたどり着いた。
 レンガ造りの家が建ち並ぶ古風な街並だった。街の中心に大きな噴水があり、近くに青空市が開かれている。大声で発せられる売りの言葉に人々は足を止め、色鮮やかな果物を眺めていた。
「良い街だねぇ。出来れば名物料理でも食べてから出て行きたかったんだけど……」
 先程露店で買った『アリアの宝石』という名前の紅い果物にかぶりつきながら、アシェリーは木の板に殴り書かれた石渡り船の出港時刻を確かめる。
「あと十分だとよ。コレを逃したら三日は待たされるな。ま、別に俺はどっちでも良いけどよ」
 背中にフィットしたバックパックから顔を覗かせ、ガルシアは投げやりな口調で言った。どうや五日間ずっと狭いところに押し込まれて拗ねているらしい。
「なにヘソ曲げてんのさ。おぶってあげてるだけでも感謝して欲しいよ」
 肩の上がダメならば、ということでガルシアの方から提案した妥協だった。よほど歩くのが嫌のようだ。確かに肩に乗るくらい体の小さなガルシアが、アシェリー達の歩幅に合わせるとなると相当な労力を強いられるが。
「さ、乗り込むよ。エフィナ、酔い止めの薬はまだあるね?」
「……ん」
 白い長衣の袖から、緑色の液体が入った小瓶を取り出す。
「オッケー。アタシの鞄の中でげーげーやられちゃ堪らないからね」
「……悪かったな」
 石渡り船の近くにいる船員にお金を渡してチケットを受け取り、アシェリー達は黒光りする船体の中へと足を踏み入れた。
 石渡り船は石海を渡るという強行に耐えるため、すこぶる頑丈な超硬金属で作られている。リードメタル製の五重装甲を硬質化魔法で強化した物だ。船の先には石を簡単に粉砕できるエッジ付きのスクリューモーターが取り付けられており、粉砕した石を取り込んで後方へと吐き出して推進力に変える。ソレが石渡り船の構造だった。
「でよ、アシェリー。気付いてんだろ?」
 魔法の光で照らし出された無骨な船内を歩くアシェリーに、ガルシアが肩に乗って耳元で囁いてきた。
「ああ。この五日間べっとりだからねぇ。飽きずによくやるよ」
 野宿の次の日からアシェリー達は誰かにつけられていた。相手が誰なのかまでは分からないが、アシェリーに悪意を持った人間だと考えて良いだろう。
「多分、仕掛けてくるとしたらココだぞ」
「分かってるよ」
 逃げ場のない石海の上。誰かを騙し撃つとすれば絶好の場所だ。
「エフィナ、出来るだけアタシから離れるんじゃないよ。いいね」
「……ん」
 エフィナは眠そうな視線でアシェリーを見上げながら、ぎゅっと手を握ってくる。ソレを強く握り返し、アシェリーは黒い扉が並ぶ廊下を抜けて階段を上がった。これ程圧迫感があると船室でくつろぐ気分にはなれない。
「なんかこう……船旅って感じじゃないねぇ……」
 石渡り船は部屋や階段、そして甲板までもが頑強な素材で作られている。
 風の当たる外に出ても当然潮の香りなどしない。まるで戦艦に乗せられて賽の河原を渡っているようだ。
 甲板の端から、ぼーっと街を見下ろしていると、大きな揺れと同時に船が動き出した。下の方で石の砕けていくけたたましい音が響く。
「うぉのれアシェリー=シーザー! 敵前逃亡とは俺様の超絶な実力に臆したかあぁぁ!」
 その音に混じって、街の方から別の雑音が耳に届いた。
「……追って来たのって、アイツかい?」
「違うと願いたいな」
 石海に飛び込もうとして、街の人達に押さえ付けられているヴォルファングを横目に見ながら、アシェリーは静かに頷いた。


「う、うぷ……。エフィナ、薬くれ、薬」
 出航して五分も経っていないと言うのに、早くもガルシアが根を上げた。器用にアシェリーの肩からエフィナの肩へと乗り移り、さっきの薬を出すようにせかす。
「アンタ辛いんなら部屋で休んでくるかい?」
「バカ言うな。あんな狭っ苦しいトコに押し込められたら、余計……う、うぷ……エフィナ、早く……」
 どうやら完全にグロッキーのようだ。
 やれやれ、と哀れみの視線を送りながら薬を飲むガルシアを見ていると、背後に気配を感じた。振り向くと同時に、額に硬い物が押し当てられる。
「とうとう追いつめたヨ、アシェリー」
 妙なイントネーションを含んだ甲高い声。聞き覚えがある。
「さぁ、ちゃんと返してネ。オ・カ・ネ」
 鈍色の銃身を持つハンドガンタイプの魔鋼銃を突きつけ、ニッコリとあどけない笑顔を浮かべた少女がコチラを見ていた。
 緑とピンクで染め上げたファンキーな髪の毛を、頭の両サイドでおダンゴに纏めている。左目にはめたモノクルの下には、リュード族の明かしである碧眼。背丈はエフィナより頭一つ分高いが、アシェリーの胸元までしかない。
「リュ、リュアル……まさかアンタだったのかい? アタシらをずっとつけてたのは」
 リュアル=ロッドユール。長命なリュード族の少女だ。コレでも百歳は軽く越えているらしい。
「つける? そーんなコトしないヨー。これは、ウ・ン・メ・イ。神様がボクにチャンスをくれたのサー。身ぐるみ全部ひっぺがして来いってネー」
 アロハ風の派手なTシャツに迷彩模様のカーゴパンツという、いかにも遊び人ちっくな身なりで言いながら、リュアルは魔鋼銃をさらに強く押し当ててきた。
「ざ、残念だったねー。今持ち合わせが無いんだよー。まとまったお金が出来たら必ず返すからさ」
「だーめ。無いんなら……体で払ってもらおうかナー?」
 口の端にイヤらしい笑みを浮かべ、リュアルは空いた手で卑猥な形を作る。
 リュード族は女だけの種族だ。そして女同士でも子供を成せる体になっている。故に当然女色であり、リュアルも例外ではなかった。
「いつ見ても綺麗な躰してるよネー。手とか足とかビックリするくらい細くて白いのに、オッパイだけはででーんと出てるんだもン。羨ましーヨ」
 深いスリットの間から覗く足と、肩から先が露出している手に視線を這わした後、リュアルは自分とアシェリーの胸を見比べた。
 アシェリーが見事な双丘なのに対し、リュアルは完全無欠の平坦だ。
「ほ、ほら。リュアルみたいなのが好みってヤツもいるしさ。こんな物デカくったって肩こるだけだし……。で、いい加減この銃下ろしてくれないかな?」
「選んだら下ろしてあげるヨ。お金返すか、躰を開くか。さぁ、どっち?」
 リュアルは金貸しを生業としていた。ただし非合法の高利貸しだ。アシェリーは別にお金に困っていたわけではないのだが、事情があってリュアルの資金を殆ど借り上げ、そして逃げた。結果リュアルは金貸しをやって行けなくなり廃業。今は持って行かれたお金を取り戻すために、アシェリーを追い続けている。
「お、お金はあるんだよ。ただちょっと人に預けてて持ってないだけで」
 それは本当だった。今、リュアルから借りたお金は信頼の置ける人に預けてある。そしてリュアルが金貸しから足を洗い、まっとうな職業に就いたらまとめて返すつもりだった。
「信用すると思う?」
 トリガーにかけられた指が少し引かれる。
 アシェリーを殺せば当然お金は戻ってこない。単なる脅しでやっているとは思うのだが、リュアルの浮かべる満面の笑みから真意は読みとれない。
(しょうがない、ね……)
 いつまでも物騒なモノを突きつけられている訳にはいかない。今、甲板に人は殆どいないが、いつ見つかってもおかしくない。騒がれたら厄介だ。
 ガルシアに目配せし、何とか隙を作ってくれと視線で会話する。
 しょうがねぇな、といった様子でガルシアが前足を動かしかけた時、遠くの方で悲鳴が上がった。
(見つかったか……)
 胸中で舌打ちし、目だけを動かして叫び声を上げた人物を探す。
 それは背中の曲がった老女。黒い甲板の上に尻餅をつき、怯えた視線で前を見ている。ただし、見ているのはアシェリー達のいる方向とはまったく逆だった。
 老女の叫声を皮切りに、連鎖的にまき起こる恐怖の声。どうも様子がおかしい。
「リュアル。何があったのか、ちょっと見に行かないかい?」
「きっとボクらにとってどーでも良いことだヨ。そ・れ・よ・り、どっちか選んでっ」
 アシェリーを脅すのが楽しくて堪らないと言わんばかりに、リュアルは声を弾ませた。銃口はさっきから一ミリも動かない。
(やっぱりガルシアに何とかして貰うしか……)
 再びガルシアに目線を向けようとしたその時、爆音と共に冗談じみた大きさの魚影が宙に舞った。
「な――」
 さすがのリュアルも一瞬そちらに気を取られる。
(今だ!)
 絶好の機会の到来に、アシェリーは素早い身のこなしでリュアルの懐に潜り込んだ。火線から外れたところで、リュアルの手首を捻り上げ魔鋼銃を取り上げる。
「イタタ! 何するんだヨ! 返しテ!」
「そんなこと――」
 出来るわけないだろ、と言おうとした口が船体の大きな揺れで閉ざされた。続けてアシェリーの真後ろで、先程の巨大な魚が姿を現す。
 ちょっした軍用艦ほどの大きさを誇るこの石渡り船に匹敵する規模だった。
 鮫のように鋭角的なフォルム。目は退化して潰れており、代わりにしなる鞭のような触角が眉間から一本長く生えている。さらに体の三分の一を両断したかのような口は縦に大きく開き、何千という鋭い牙を赤黒くぎらつかせていた。
「ヤバイぞ! 何か知らねーけどコイツ、俺達を狙ってやがる!」
 ガルシアがアシェリーの肩に飛び乗り、切迫した声で叫ぶ。
「みたいだねぇ! クソ!」
 エフィナを小脇に抱え、アシェリーは甲板の中央へと跳んだ。そこで彼女を下ろして腰から五節棍を抜き放つ。
「なんで古代魚がこんな上まで来てるんだぃ!」
「知らねーよ! だいたいあの種類は人襲うようなことしねーはずだぞ!」
「この前の火山といい最近ついてないねぇ! 全く!」
 上下左右に激しく揺れる船体の上で、アシェリーは両足に力を込めて辛うじて踏ん張る。そして左手に持った魔鋼銃をリュアルに投げて渡した。
「リュアル! 死にたくなかったら一緒にアイツを何とかしな!」
「何とかって……出来るわけないだろ! あんなデカイヤツ!」
「出来ないなんて簡単に言うモンじゃないよ! どーしてもダメって言うんなら、出来るまでやればいいだけさ!」
 叫びながらアシェリーは甲板を蹴った。
 これだけの大きさの古代魚をまともに相手などしていられない。叩くとすれば急所だ。深海に生息しているため目はない。ならば剥き出しになっている触角だ。
「はあぁぁぁぁぁぁ!」
 石渡り船を転覆させんとばかりに、古代魚が下から船体に体当たりして宙を舞う。顔を出したところを狙い、アシェリーは五節棍を触角めがけて放った。長目に持った魔導素材の棒は直線的な軌道を描き、狙いすましたように古代魚の触角に命中する。
「……ッく!」
 硬い手応え。足場が不安定だったせいもあるが、五節棍は触角に傷一つ負わせられないまま弾かれた。
「上から来るぞ!」
 いつの間にかバックパックに身を投げ入れたガルシアの声が後ろから聞こえる。それに反応してアシェリーは体ごと左に転がった。直後、さっきまでアシェリーのいた位置に、城門ほどもあるヒレが叩き付けられる。その衝撃で船体が殆ど直角に傾いた。
「何て馬鹿力だい!」
 振り落とされまいと舳先に巻き付けた五節棍を持つ手に力を込める。石渡り船ほどの堅牢さがなければとうの昔に沈められていただろう。
「リュアル! 何してんだい! その魔鋼銃は飾りだったのかい!」
「だって……! だって……!」
 甲板の中央。エフィナと一緒になって体を小さくしながら、リュアルは怯えた視線でコチラを見てくる。
 五節棍ではどうしても飛距離が足りない。射程距離が長いとはいえ所詮中距離用の武器でしかないのだ。これでは古代魚に決定的なダメージを与えられない。しかし、リュアルの魔鋼銃ならば――
「こぉのペチャパイ! そうやってウジウジしてるからいつまで立っても幼児体型なんだよ!」
 その一言でリュアルの顔つきが変わった。
 ダダをこねる童女のような顔から、内面を消した硬質的な表情へと。そして灼怒を立ち上らせる悪鬼の容貌へと変化する。
「ワレコラー! 今、何つったー! もっぺん言ってみーや!」
 両足でしっかりと地面を捕らえて立ち上がり、リュアルは魔鋼銃をアシェリーに向ける。そして躊躇うことなくトリガーを引いた。
 三点バーストで乱射される魔弾を何とか五節棍で弾きながら、アシェリーは声を上げる。
「どこ狙ってんだい! 敵はアッチだろ!」
「アンダラー! ワシにケンカ売ったんはオノレじゃろーが!」
 ダメだ。完全に目が据わっている。
 どうするべきか思案していると、さっき弾いた魔弾が意思を持ったかのように浮かび上がり、リュアルの元に返っていく。
(あの弾が、リュアルのディヴァイド……)
 そうとしか考えられない。リュアルは魔弾に自分のエネルギーを分け与え、手から放れても自由に操作できるようにしてある。
「ワシの銃に弾切れは無いでー! 死ねやー!」
 リュアルは手の中に収まった魔弾を弾倉に込め、叫び声と共に射出した。
「く……!」
 内輪をもめしている場合ではないというのに。
 余計に生まれた敵に内心ほぞをかみながら、アシェリーは魔弾の火線から体を逃れさせる。右に大きく跳び、完全にかわしきったはずだった。しかし――
「――ッな!」
 魔弾は不自然に軌道を変えると、アシェリーを追って肉薄する。
 跳弾ではない。弾は船にぶつかる前に角度を変えた。
(速い……!)
 避けられない。体勢が悪すぎる。
 せめて急所だけは外そうと身を捻った時、船体が縦に大きく傾いた。そのおかげでアシェリーの体は沈み、黒髪を数本跳ね飛ばしてあさっての方向へと消える。
「チィッ! 運のいい!」
 悔しそうに奥歯を噛み締めるリュアルの元に、魔弾が戻って来た。
(古代魚に助けられたねぇ。アタシの悪運もまだまだ捨てたモンじゃないってことか)
 それに貴重な情報も得られた。
 リュアルがディヴァイドにした魔弾は、あれだけのスピードでも軌道を急変させられる。おそらく再装填の際に、込めるエネルギーを増やしたのだとは思うが。
「今度で終わりや。ワシの全力の一発は絶っっっ対に避けられへん」
 来る。
 口振りからして殆どのエネルギーを魔弾一発に注ぐつもりだ。自在に制御できるのはもとより、威力も半端ではないだろう。
「往生せいやああぁぁぁぁ!」
 肩幅に足を広げ、真っ直ぐ構えた魔鋼銃のトリガーをリュアルは狂喜に染まった顔で引き絞った。低い重低音と共に、一発の魔弾がアシェリーに牙を剥く。
(やるしかない!)
 カッ、と大きく目を見開き、アシェリーは意識を魔弾だけに集中させた。甲板を強く蹴り、大きく宙に舞う。魔弾は予想通り直角に軌道を変えると、アシェリーを追って高速で飛来した。
 五節棍を折り畳み、ソレを盾代わりにして魔弾を弾く。
「避けられへんゆーたやろ!」
 弾かれた魔弾は一端空中で静止すると、さっきより速いスピードで急迫した。アシェリーは浮いた状態で体を入れ替え、何とかソレをやり過ごす。脇腹を僅かに掠めたが、傷と呼ぶにはほど遠い。
 魔弾は船から離れ、石海へと少し投げ出されたところで急停止すると狙いをもう一度アシェリーに定め直す。その次の瞬間、古代魚が石海を突き破って垂直に立ち上った。
(チャンス!)
 古代魚がこれだけハッキリ全身を見せるのは、最初で最後かも知れない。
 足を大きくたわめ、アシェリーは膝のバネを最大限に活かして石海へと身を躍らせた。
「バッ……! 何考えてんだテメー!」
 背中でガルシアが何かわめいている。だがそんなことを気にしている場合ではない。
 古代魚を何とかするにはコレしか方法がない。
 アシェリーは五節棍を古代魚の腹ビレの一つに絡ませると、ソレを力一杯引き寄せて強引に古代魚の体に着地する。自分を追って軌道修正した魔弾を後ろ目に確認し、アシェリーは五節棍を次々とヒレに引っかけて古代魚の頭部へと駆け上がって行った。
「おおっと!」
 半分くらいまで来たところで古代魚の鱗を蹴り、五節棍をジャングルの蔦のように使って別の鱗に乗り移った。直後、さっきまでいた鱗を魔弾が穿つ。
 古代魚の持つ強靱な鱗を易々と割った魔弾に戦慄しながらも、アシェリーはその破壊力に頼もしさを感じていた。
 古代魚の上昇が止まり、落下し始める。完全に体がUの字に捻られたのを確認して、アシェリーは一気に頭部へと跳躍した。足場の悪い鱗に五節棍を叩き付け、摩擦から生じた抵抗で体が流れるのを止める。
 背後には急所である触角。絶好の立ち位置だ。
(後はギリギリまで引き付けてかわせば……)
 魔弾は古代魚の触角に命中する。
 そう確信した時、古代魚が吼えた。
 触角のすぐ真下にある大口から、膨大な振動波が物理的な衝撃さえ伴って発生する。大気を鳴動させる爆音。それは身の危機を感じた古代魚が発した、威嚇の声だったのかもしれない。
 そして古代魚の思惑通り、アシェリーを怯ませるには十分すぎた。
 あまりに間近でした炸裂音に鼓膜がやられ、視界が揺らぐ。気が付けば鱗から足が離れていた。
 足を滑らせた先にあるのは、古代魚の持つ凶牙。下からはアシェリーを追尾してきた魔弾。
(殺られる――)
 思考ではなく、本能がそう感じた時、アシェリーの中で何かが弾けた。
 風が止み、音が消える。世界から彩りが失せ、白と黒の二色だけで塗りつぶされていった。自分が自分で無くなる感覚。スローモーションのように緩慢な動きで進行していく周囲の光景が、別世界での出来事のように感じる。
(なん、だ――)
 爪先から頭のてっぺん。髪の毛の一本一本に至るまで、異常に鋭く研ぎ澄まされた神経が張り巡らされた。そして自分の意思とは関係なく、この絶体絶命の状況を打破する方策が練り上げられていく。
(そんなこと出来るわけない――)
 心でそう感じる。だが体はそう思っていない。
 殆ど無意識に両手が動き、五節棍の先を魔弾に向けて構えた。
 ――この弾丸を面ではなく点で受け止める。
 最初にしたように盾として面で受ければ十中八九弾けるだろう。しかしソレでは力が分散されてしまう。だが点で受け止めれば今の魔弾の力をそのまま体に受けられ、真上に大きく押し上げられる。
(寸分の狂いも許されない――)
 魔弾の大きさは五節棍の先の直径と比べて一回り小さいだけだ。少しでも芯を外せば体のどこかを貫かれる。運良く急所を外れたとしても古代魚の口から出られなければ、胃袋行きが確定する。
(大丈夫だ。絶対に出来る――)
 いつの間にか不安は払拭され、確固たる自信が根付いていた。
 視界の中で、ゆっくりと大きくなる魔弾。それが右方向に回転し、周囲で気流が渦巻いているのすら見て取れる。
 アシェリーは細く息を吐き、魔弾に五節棍の先を合わせた。スナイパーが標的に全神経を集中させるように、失敗の許されない緻密な作業に没頭する。
 やがて魔弾は五節棍の先に触れ、そして――
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 肩に伝わる明確な手応え。コンマ一ミリの狂いもなく、五節棍の先端は魔弾の芯を捕らえた。その力に乗って、アシェリーは再び古代魚の頭上へと舞い戻る。眼前には無防備な触角。
(いける――)
 最初は傷一つ付けられなかった。打撃系の武器では無理かと思っていた。
 だが今なら――
 根拠のない確証。頭の中には成功した時のイメージしか浮かんでこない。
「コレでも……」
 五節棍を二つに折り、両端を持って大きく振りかぶる。
「食らいな!」
 触角の付け根から上に一メートル。何故か、一番脆いと分かったソコにめがけて力一杯叩き付けた。
 薄いガラスが割れたような甲高く澄んだ音が、石海に響き渡る。それから一呼吸ほど間を空け、古代魚の絶叫が轟いた。
 激痛に悶えるように全身をのたうち回らせた後、古代魚は石海の中へと逃げ帰る。
「やった……」
 上から雨のように降り注ぐ石つぶてを五節棍で破砕しながら、アシェリーに石海の上に立って大きく息を吐いた。いつの間にか視界は元に戻っている。時間も普通に流れていた。
「取り合えず、船は無事みたいだねぇ」
 石渡り船を見上げる。へこみや傷はあるものの、大破した箇所は一つもない。無骨な黒塗りの船は、悠然と石海に浮かんでいた。
「おおーい! 大丈夫かぁー! いまハシゴを下ろすからなぁー!」
 船の上から船員らしき男が大声で叫び、太い縄バシゴを投げ下ろしてくれる。アシェリーも負けないくらいの大声で礼を返し、ハシゴを伝って石船へと戻った。
「お・か・え・りぃー、アシェリー。ボク待ちくたびれちゃったぁー」
 そして甲板に足を下ろしたところで、リュアルの魔鋼銃が待ちかまえていた。が、すぐに後ろから船員に取り押さえられる。
「な、何するんだヨ! 離せヨ!」
「バカかお前! 俺達の船を救ってくれた英雄にこんな物騒なモン突きつけやがって! 大陸に着いたらすぐに衛兵に突き出してやるから、ソレまで船倉でじっとしてろ!」
 筋骨隆々の男に小柄なリュアルが勝てるはずもなく、魔鋼銃を取り上げられてずるずると引っ張られていった。自分のエネルギーの殆どを込めた魔弾は、残念ながらさっき古代魚に食われてしまっている。
「ま、一件落着ってところかな」
 問題が二つ同時に片付いたことに妙な爽快感を覚えながら、アシェリーは肩をすくめた。


 船のダメージはそれほど深刻なモノではなかった。一時間ほど整備を行った後、石渡り船は何事もなかったかのように航路に戻った。
 乗客への被害は全くのゼロではなかったが、打ち身やかすり傷といった軽傷ばかりだ。命に別状はない。
(それにしてもさっき力……あれはいったい何だったんだろーね)
 船長が船と乗客を救ってくれたお礼としてアシェリー達に用意してくれた特級の部屋。十畳ほどの床には紅い絨毯が敷かれ、壁には民族画の描かれたタペストリーが貼られてある。シャンデリア、とまでは行かないがそこそこ豪華な照明器具が取り付けられており、柔らかい光を室内に落としていた。飾られていただろう調度品はさっきの事故で殆ど床に落ちて割れていたが、かえってシンプルで落ち着いた空間になっている。
 部屋の隅にある材質の良いソファにー身を沈めながら、アシェリーは自分の両手をまじまじと見つめた。
 死を覚悟した時、突然舞い降りた不思議な力。まるで自分が万能にでもなったかのような錯覚。
 星喰いが見え、ドレイニング・ポイントを閉じることの出来る自分が、他の人達とは明らかに違うことは十分に分かっていたつもりだった。星を救うために選ばれた者が持つことを許された力なんだと思い、深く考えようともしなかった。いや、正確には考えている暇などなかった。やらなければならないことが多すぎて。
「テメー、アシェリー。さっきみたいな無茶もうするんじゃねーぞ」
 目の前の丸いガラステーブルの上で、ルカの実にかぶりつきながらガルシアは半眼になって言う。古代魚に跳びかかったことを言っているのだろう。
「ああしないと、みんなやられちまうだろ」
「みんなじゃねーよ。お前一人なら逃げようと思えば十分逃げられただろ」
 ガルシアの言葉に、アシェリーは論外だと言わんばかりに鼻を鳴らした。
「助けられるかもしれない命見捨てて、自分だけのうのうと生きるんなら死んだ方がマシさ」
 そう。アシェリーはこれまで何度もそうして来た。
 自分は力を持った人間だ。その力は弱い人達を守ることに使うべきだ。
「お前はこの星を救うんだろ? だったらこんなトコで死んでどーすんだよ」
「大事の前の小事には目を瞑れってかい? アタシが一番嫌いな考え方だね、そういうの」
 アシェリーは戦火で焼かれた村の生き残りだった。国からの救助が来るまで、残った人間だけで何とか生きなければならなかった。そこでは大人も子供も、男も女も関係ない。皆、貴重な労働力だ。当時十歳だったアシェリーも例外ではなかった。
 僅か十数人で家を建て、飢えをしのぎ、何とか生き続ける。弱音を吐くことなど許されない。『出来ない』など言えない。
 出来るまでやる。そうしなければ待っているのは死だ。
 そんな状態で数ヶ月を過ごし、ようやく国からの救助が来た。
 アシェリーの村がある国の首都、ゼイレスグの誇る王家騎士団だ。彼らは温かい食べ物と清潔な服、そして頑丈な家を与えてくれた。そのあまりにも逞しい勇姿にアシェリーは一目で虜になった。
 いつか自分もこんな風に人助けをしたい。強い思いはアシェリーにとって充実した日々を送る糧となり、生きるための目標となった。
 アシェリーが十六になり、王家騎士団に入団するための年齢条件をクリアした。そして二年掛けてようやく入団テストに合格した。
 期待と不安に包まれながらも、誇り高い騎士団の一員として胸を張って過ごした。
 配属されて一年後、初めて実戦に赴いた。それは先の戦争で生まれた残党を狩ること。未だ戦う意志を衰えさせない者を見つけて葬る。勝利国であるゼイレスグにとって諍いの種を潰すための当然の行為であり、アシェリーとっては自分達の家族を奪った敵国への復讐の機会でもあった。
 どんな悪人が待ちかまえているのか。アシェリーは昂ぶる気持ちを抑えて、多くの先輩と共に敵国の兵がいるという場所まで来た。
 だが、ソコにいたのは敵だけではなかった。
 気の荒い獣人兵と一緒に、怯えた視線でコチラを見つめていたのは自国の民。子供や女性、老人もいる。
 戦争が終結して六年。敵側に捕虜として捕らえられていた者が、全員解放されたわけではなかったのだ。アシェリーは彼らを救うことも含めて、獣人達に斬りかかった。皆、思いは同じだった。
 最初の内は。
 捕虜を盾にして立ち回る獣人兵。数ではコチラが勝っているにもかかわらず、人質で動きを制限されているため思うように力が発揮できない。長期戦になれば逃げられる可能性もある。
 それを防ぐため、隊のリーダーがシンプルで残酷な命令を下した。


《捕虜も敵も関係ない。皆殺しにしろ》


 埒の明かない戦いに苛立ち始めていた兵達は、喜々としてその命令を受け入れた。醜く歪む彼らの顔には、自国に仇為す敵を討つという崇高な使命感はなく、ただただ殺戮に酔いしれる狂喜の輝きが宿っていた。
 小さな村に舞う無数の鮮血。重荷を外された兵達は力を存分に発揮し、累々たる死体が積み上げられていった。
 いくら勝利のためとはいえ自国の民を虐殺すれば罰せられる。アシェリーはそう言ってリーダーに食い下がった。しかし、ソレも無駄だった。


《我が国の将来のためだ。この大義名分をかかげていれば罰せられない》


 得意げな顔で答えた彼に、アシェリーは目の前が暗くなるのを覚えた。勝利のためなら救うべき捕虜も見捨てるという考え方のリーダーに失望した。
 そして実際、彼らは罰を与えられなかった。国力を盤石にするという大きな理由さえあれば、どんな非道をも小さなことと看過する国としてのあり方に絶望した。
 大儀を為すためには、多少の犠牲は付き物。
 その間違った言葉の使い方が、まことしやかに流布されている王家騎士団にいては自分がどんどん腐っていくだけだ。そう感じたアシェリーは、すぐに脱団した。
 幼い自分を救ってくれた憧れの王家騎士団が見せた暗部。ソレはアシェリーの中の理想像を瓦解させるには十分すぎた。
「命に大きいも小さいもないんだよ。星を救うためなら、ちょっとくらい見殺しにしてもいいなんて腐ったヤツのする考え方さ」
 ゼイレスグは今や世界最大の軍事国家として不動の地位を獲得している。おそらく、他国に付け入る隙を与えない冷徹な一面を持っているせいだろう。綺麗事ばかりでは国の運営はやっていけない。そのこと自体、頭では理解できる。しかし納得は行かない。
 だからこそアシェリーは自分のやり方で人を助ける道を選んだ。
「けどよー、勝ち目の薄い戦いやんのは利口じゃねーぞ」
「薄いんなら濃くして行けばいいだけさ。諦めたらそこでお終いだよ」
「ったく。頭の固い女だぜ」
 これ以上の会話は無駄と悟ったのか、ガルシアは拗ねたようにそっぽを向いてルカの実を食べることに専念し始めた。
「そんなことよりさ、エフィナ。前回の噴火といい今回の古代魚といい、さすがに妙なことが二回も続くと偶然とは思えないんだけど。これって星喰いと何か関係あるのかい?」
 ガルシアの話ではあの火山は死火山だった。そしてあの古代魚も本来大人しい性格で、人を襲うようなことはないはずだと言う。
 フリルのついた豪華なベッドの上で黙々と本を読んでいたエフィナは、アシェリーの声に顔を上げてどこか眠そうな視線をコチラを向けてくる。
「……そうかも」
 長衣の袖口に隠れた小さな手で紅い髪の毛をいじりながら、エフィナはか細い声で返した。
 星喰いは本来起こり得ない異常な現象だ。
 ガルシアに聞いた話では、この星の人間は皆、星の栄養素として生きているらしい。赤ん坊として生まれ、成人し、老化して土へ還る。これらのステップは星が人間を栄養素として代謝しているから起こるのだという。
 星は成熟した木の実や大きくなった穀類といった自分の中での最終産物を、人間に食べさせて子供を成人させる。そして成人することで心身共に生気の充実した人間からエネルギーを徐々に貰い、自分の栄養にする。その過程が老化というわけだ。得たエネルギーで星は再び大地を育み、子供を成人させる。
 このサイクルを繰り返すことによって、星は常に新鮮なエネルギーを得ることが出来るらしいのだ。勿論、エネルギーを貰うと言っても何十年も掛けて少しずつ行うため、大人達に過剰な負担は掛からない。肉体的な衰えを年齢によるモノと自然に感じさせる程度だ。
 だが、今は星のエネルギーが全体的に不足し、このサイクルが狂い始めている。そのため星は必要以上に搾取する。まだ子供であったとしても。
 それが星喰いだ。
 火山や古代魚に、何らかの形でその影響が出ていてもおかしくない。
「じゃあまた全部、黒王のせいってわけかい。ソイツが下らないことしてなけりゃアタシも苦労しなくてすむんだけどねー、ガルシア」
 両手を頭の後ろで組み、アシェリーは半眼になってテーブルでくつろいでいるガルシアに声を掛ける。ガルシアは嫌そうな顔で頭を掻きむしり、大袈裟に息を吐いて見せた。
「うっせーなー。だからソレを何とかするために俺が来たんだろーが。ったく、いちいち嫌味ったらしい奴だぜ」
「あはは、悪かったよ。ちょっと、からかっただけさ。そんなにヘソ曲げないでおくれよー、ガルシアー」
 言いながらアシェリーはガルシアを持ち上げ、脇の下を両手でこそばす。
 ガルシアはアシェリーの星を喰おうとしている亜邪界あじゃかいという星から来た使者だと、自分では言っている。アシェリー達が今いる星――物質界――を亜邪界が喰っているために物質界の中でエネルギー不足が起こり、星喰いが起こっているらしいのだ。ガルシアはソレを行っている亜邪界の王――黒王に刃向かって、物質界の星喰いをくい止めるためにやって来た。
 勿論そんなこと信じられなかった。
 だが喋る黒猫に、その声はガルシアが選んだ人間以外には「にゃー」としか聞こえないこと。さらにガルシアが見せてくれた星喰いの実態。いくつもの奇怪な事実に、アシェリーはガルシアが嘘を言っているとは思えなくなった。
 人が喰われていく様子を目の当たりにしたアシェリーは、すぐに何とかする方法はないのかと問いつめた。そして自分に特別な力があると言われた。だから声を掛けたとも。
(最初の内は色々考えたりもしたけど……結局ガルシアが教えてくれない限り答えなんか出るわけないしねぇ)
 星に喰われた人間を癒すことはアシェリーにしかできない。他の人間が触れても変化がないのは何度も確認している。ドレイニング・ポイントも同様だ。アシェリーにしか閉じられないのはもとより、何故自分がドレイニング・ポイントを閉じても無事でいられるのかさえ分からない。そもそもガルシアがどうして黒王を裏切ってまで物質界を救おうとしているのかすら教えて貰っていないのだ。
(けどま、そんなことは全部終わってからゆっくり考えればいいことさ)
 何か考え始めた頭を軽く振り、アシェリーは強引に思考を押し出した。
(下らないことは考えるな。今そんな答えは必要ない。今必要なのは……)
 喰われた人を元に戻す特殊な力。ドレイニング・ポイントを満たすだけのエネルギーを吸われても、生きていられるだけの頑強な肉体。今はその結果さえあれば十分だ。理由なんて些細なことでしかない。
 まるで何かから逃げるように自分にそう言い聞かせると、アシェリーはガルシアを持つ手に力を込めた。
「っだー! やめろよ! このバカ!」
 暴れて強引にアシェリーの手を振りほどき、ガルシアはテーブルに着地して「フーッ!」
と威嚇の声を上げる。こういう仕草は猫そのものなのだが。
「……でも。あの子……かも」
 退屈な待ち時間をガルシアで潰そうと、ソファーから身を乗り出したアシェリーの耳に消え去りそうなエフィナの声が届く。
「あの子って……」
 ガルシアに伸ばした手を止め、アシェリーは硬直した。
 エフィナが『あの子』と呼ぶのは一人しかいない。
 世界中に点在するエフィナのディヴァイドの一人。
「まさか、ずっとつけて来てたのって……」
 ヴォルファングを捨ててから石渡り船に乗るまでの五日間、ずっと背後に感じていた気配。
 アシェリーの声にエフィナは弱々しく首を横に振った。分からない。だが可能性はある、という仕草だ。
「あの子の恨みは、ちょっとやそっとじゃ消えそうにないねえ」
「今も扉の向こうでお前の首狙ってたりしてな」
 お返しとばかりに、ガルシアはクック、と意地悪く笑いながら言った。
「かも、ね……」
 いつになく真剣な顔つきでアシェリーは呟く。冗談には聞こえなかったからだ。勘違いとはいえ、あの子は自分を両親の仇だと思いこんでいる。殺したいくらい憎んでいてもおかしくはない。
 エフィナのディヴァイドであったその子は、ある事件によって完全にエフィナの制御から離れた。
 ――そしてディヴァイドの『暴走』が始まった。
(あの子を止めるには、やっぱりアタシが真犯人を捕まえるしかない……)
 犯人の顔は見ている。力も自分より弱いことは分かっている。後は捕まえて自白させるだけだ。だが見つからない。目撃情報も一切入ってこない。どこか大きな組織にでもかくまわれているのだろうか。
「それにしても……ディヴァイドってのは使い方間違えると厄介なモンだね。きっとアタシにゃ向かないから丁度よかったよ」
 少し声のトーンを落として言い、アシェリーは自嘲気味に肩をすくめて見せる。そしてガラステーブルに置かれたフルーツバスケットから、ルカの実を取り上げて噛まずに呑み込んだ。
 アシェリーはディヴァイドを使えない。
 ヴォルファングにも、リュアルにも、エフィナにも使えるのに、アシェリーは行使することが出来なかった。
(まだまだ修行不足ってことかな)
 戦闘センス以外に何か必要な物があるのかもしれない。他の三人と自分との違い。体格、背丈、性別、種族。
(ま、どーでもいいか)
 途中まで考えてすぐに止める。
 答えの出そうにないことを悩んでいてもしょうがない。やるべきことが終わった後に、全部まとめて考えればいい。
 うーん、と大きく伸びをし、ソファーに寝転がったところで、スピーカーから船内放送が流れた。
『お客様にご連絡いたします。ただ今、当船のエンジンに深刻なトラブルが発生いたしました。石海上では修理できない箇所が含まれているため、当船は航路を外れてオビス島へと向かっております。お急ぎのところ誠に申し訳ございません。修理による足止めによって発生したお客様の宿泊費、食事代は全額こちらで負担いたしますので、なにとぞご理解、ご協力のほどお願い申し上げます』
 先程、古代魚に負わされた船のダメージが今頃になって表面化したのだろう。外側に問題なくとも、内側はそうでもなかったらしい。
 船内放送の内容から察するに、修理に数日は掛かるようだ。
「どーする、アシェリー。このまま大人しく待ってるか?」
「めどの立ってない予定に付き合うほど暇じゃないんだよ」
「……そーゆーと思ったぜ」
 げんなりした様子で、ガルシアは名残惜しそうにルカの実を噛み砕いた。


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