ロスト・チルドレン -screaming the deadly ambition-

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  Nightmare.5【迷走 -the answer-】  

Outer World.
Huge_Scale Plant in Underground.
Second Basement. Monitor Room.
AM 11:41

―アウター・ワールド
 大規模地下施設
 地下2階 モニター・ルーム
 午前11時41分―
 
View point in アディク=フォスティン

 ヴェインの指示に従って通路途中の部屋に入った時、中はすでに楽しい事になっていた。
 さっきのフロアの簡易培養室らしき場所もそれなりに酷かったが、ココはその比ではない。
 一言で言い表すとすれば、“埋め尽くされている”、だ。
 シルバー・スケール製の床は勿論の事、無数の電子機器が明滅している壁や、液晶を血反吐のように吐き出しているコンソールモニター、そしてエアダクトが剥き出しになった天井までにも“破片”が飛び散っている。
 先行チームが余程派手にやったらしい。おかげで酷い臭いだ。こういう精神衛生上良くない場所はさっさと立ち去りたいものだな。でないと床が余計に汚い事になりそうだ。
「…………」
 ミゼルジュにしがみつき、口元を抑えているリスリィを横目に見ながら俺はコンソールに歩み寄った。お荷物の世話はお荷物に任せておくのが一番だ。俺は俺の仕事を勝手にさせて貰うさ。
 部屋の形状は歪な六角形。6面ある壁の内、3面が大型のモニター。だが全て破壊されてしまっている。データを閲覧するには、コンソールの内容をどこかに投射してやるしかない。こういうのはリスリィが得意なんだが、今は何の役にも立たない。まぁ出来る所までやってみるさ。
 コンソール・パネルにこびり付いている指だか触手だかよく分からない肉塊をどけ、俺はケーブルボックスを探す。まだパネルが電子化されていない、旧式の情報制御装置には必ず付いているはずなんだ。外部出力するためのラインケーブルが。
 大体、パネルキーと同じくらいの大きさのボックスに隠されていて……。
 ――あった。
 数字やアルファベットが印字されていない空白のキー。血にまみれた、約20ミリ四方のボタン・カムフラージュボックス。
 先程捨てた指から爪を剥ぎ、ソレをボックスとコンソール・パネルの隙間に差し込んで蓋を開ける。中には予想通り、丸く纏められた赤いケーブルが数本。
 そのうちの1本を選んで取り出し、俺はこめかみのスロットから精密射撃トリガー・ポイントを外して、代わりにケーブルを差し込んだ。
 軽いプラスチック音がして、スロットの口にケーブルが嵌った事を知らせてくれる。
 丁度規格が同じ物があって良かった。幸か不幸かは分からないが。
 データは……生きている。
 俺の角膜に直接コンソールの中身が投射されてきている。
 本来、ロスト・チルドレンのK値を測定するための特殊なカウンターだが、波長を電気信号に変換して、それを映像化するという基本的な作りはモニターと変わらない。そしてこめかみのスロットも、インサート・マターから送られてくる電気刺激を受けて、生体内伝達系に変換するという作業を行う。だから規格さえ合えば、コンソールからの電気信号を変換してカウンター内で映像化する事も可能。
 スクールではそう教えられた。どこまで本当なのかは知らないが。
 まぁそんな細かい話はどうでもいい。とにかく今は見えたんだ。さっさとデータの抽出なり転送なりをして、次に行くだけだ。
 俺はコンソール・パネルを連続的に叩き、持ち出せそうなデータを全てインプレート・ウェアのメモリーに落とし込んで――
「ん……」
 妙に注意を引くフォルダ名に視線が止まった。

Odd_Card Memberオッドカード・メンバー

 オッドカード、メンバー……?
 俺達の戦力分析か? テロでも敵のランク付けはしっかりしてるって事か。コロコロと入れ替わるってのにご苦労な事だ。
 で、俺はどの位なんだ? 『スペード・ワン』さんは、お前らの中じゃどの程度の評価になってるんだ? ん?
 パネルを操作して、そのフォルダを開く。まぁちょっとした興味本位ってヤツだ。普通なら現場でこんな事はし、ない……が……。
「な……」
 思わず吃音が漏れた。
 プロテクトも何も掛かっていない、完全無防備なフォルダ。その中にあったファイルの内容は確かにオッドカードに関する情報だった。
 異様なまでに詳細な。
 顔写真、コードネーム、リアルネーム、戦闘適性、戦闘スタイル、スロットの数、保有インサート・マター、そしてオッドカードのメンバーとなるに至った簡単な経緯まで。

《:/・・・アディク=フォスティン・・・
 5歳の時に両親と死別。父親、母親共に当機関のエージェントが刺殺(人員不足であったため)。その後1年半の経過観察を行い、問題無しと判断。メンバーとして加入。
 ・・・備考・・・
 人工的に付加した精神傷害ではあったが、自然付加と大きな差はなく、素体として十分に優秀なレベルであると思われる:/》

 何だコレは……。一体どういう事だ。
 何故こんな情報がココにあるんだ。こんな、俺の大昔の過去……オッドカードになる前の……。
 それにアイツらの死因……。“当機関のエージェント”、だと……? 計画的? 衝動的な犯行ではなく? スラムのクズ共がその時の気分で殺したのではない?
 分からない。さっぱり分からない。しかし、“素体”って事は……。
「――ッ!?」
 後ろから轟いた銃声に俺は思考を中断させた。
「『スペード・ワン』!」
 続いてミゼルジュの悲鳴じみた声が上がる。
 後ろを振り向く。ドア影に身を隠し、リスリィを背中で庇いながらハンドガンでなんとか応戦していた。
「ち……!」
 舌打ちしてケーブルをこめかみから引き抜き、ミゼルジュとは逆のドア影に張り付く。そして彼女の弾丸が向かった先に目を向けた。
 狭い通路を塞ぐようにして、変異生命体共がコチラに押し寄せてきていた。有視界で確認して、その数――7。ロスト・チルドレンは混じってないようだが、まともに相手をすればかなり消耗する。さっきの戦いで残弾数も心許ない。
 どうする。ココを捨てて逃げるか。あのコンソールにあるデータを捨てて――
「『ハート・テン』! 作業を代われ!」
 こめかみのスロットに精密射撃トリガー・ポイントをセットしながら俺は叫ぶ。そしてマグナムを構え、
「『ハート・テン』!」
 もう一度呼んだ。だがリスリィは動かない。
「リスリィ!」
「は、はぃ!」
 リアルネームを呼ばれ、ようやくコチラに顔を向ける。
「行け! データ! スロットとケーブルで直接だ!」
 コンソールの方を顎でしゃくりながら、俺は極めて端的に要件を伝えた。それでも動こうとしない彼女の足元に弾を1発撃ち込み、銃口で部屋の奥を指す。
「は、ぃ……!」
 そこまでしてようやく伝わったのか、リスリィは必死に死体を避けながらコンソールへと駆け寄った。
 ったく、あの役立たずが。無駄弾を。
「無茶よ。あの子ココが初めてなのに」
「死にたくなかったら黙って撃て」
 ミゼルジュの言葉に低く返し、俺は変異生命体の方にマグナムを向けた。頭の中で自然に編み上がっていく弾丸の軌跡。インサート・マターを発動させる必要すらない。
 腹から6本の腕を生やし、何かを求めるように動かしている少女。その眉間に赤い穴が開いたかと思うと、鮮血が噴水のように吹き出した。そして倒れ込み際、4本の足が根元から吹き飛ぶ。
「まず1匹」
 眼窩が抜け落ち、代わりにそこから長い舌が生えた少年。その舌が突然触手のように伸び、ミゼルジュの首を絡め取って――
「お前も奥で手伝ってこい」
 締め付ける前に弾丸で寸断した。
 千切れた舌を手で掴んで思いきり引き寄せ、群れからはぐれたところを6点バーストで頭部破壊する。コレで2匹。
「あ、うん……」
 リスリィの方に向かうミゼルジュを一瞥し、俺はドア壁に身を隠して目を瞑った。
 暗い世界の中、網膜に焼き付けた変異体共の姿が鮮明に映し出される。
 顔が半分溶け落ち、全身を獣毛で覆われた者。筋繊維が一部剥き出しになり、赤黒い脈動を晒している者。皮膚が透明化し、内臓だけが浮かんで見える者。下半身が無く、異様に発達した右腕だけで這ってくる者。体の内側からもう1つ別の体が生え、本体に爪を突き立てながら近付いてくる者。
 どいつもコイツも怖気のする失敗作ばかり。ソイツらの位置、歩速、各部位の強度、そしてウィークポイント。
 意識の外側にある思考が全ての情報を勝手に想像し、纏め、結論を出す。
 俺はソレに従い、ターゲットに目を向ける事なく、マグナムを持った腕だけをドアの外に出して――トリガーを引き絞った。
 立て続けに響き渡る、銃声、奇声、落ちる音。
 重なり合い、共鳴し合い、引き裂き合い――そして消え去る。
 銃を戻し、ドアの影から顔を出して確認する。動く者は居ない。誰1人として。
 汚い汁で床を染め上げ、全ての変異生命体は絶命していた。
 軽い。妙に軽い。
 腕も、頭も、そして命も。
 良い気分だ。実に良い気分だ。
 近付いているのかも知れない。俺は本当に答えに近付けているのかも知れない。
 理由は分からないが、このまま行けばその先に――
「あの……」
 すぐ側でした声に、俺は視線だけをソチラに向ける。
「終わり、ました……」
 青い顔をしたリスリィが、体を頼りなげにふらつかせながら立っていた。倒れないようにしているのがやっとといった感じだ。息を吹きかければ、あっけなくバランスを崩しそうな気さえする。が――
「そうか」
 俺はソレに短く返し、
「奇遇だな。コッチも片付いたところだ」
 マグナムの銃口をリスリィの額に押しつける。
「アディク……!」
 その後ろから上がるミゼルジュの叫声。ソレを無視して俺はトリガーに指を掛け、
「あの、ちゃんと……追い掛けますから……。今度は、大丈夫ですから……頑張りますから……」
 掠れ、か細い声で、しかしノーブル・ブルーの瞳の輝きだけは一際強くして、リスリィは言い切った。
「ソレで良い」
 鼻を鳴らしながら言い、俺はマグナムをガンホルダーに戻す。ミゼルジュが安堵の息を吐くのが聞こえた。
「お前よりも度胸がありそうだな」
「ったく……」
 溜息混じりに悪態を付くミゼルジュを横目に、俺は襟元の超小型マイクに口を寄せる。
「ヴェイン教官、指示を」
 言い終えて少し待つ。だが返答は無い。また何か下らない思いにでも耽っているのだろうか。
「ヴェイ……」
「駄目よ、『スペード・ワン』。寄せ集めグラバッグが見えてから、アタシもずっとやってるけど……全然繋がらないの」
 少し乱れたウォーター・ブルーの髪をアップに纏め直しながら、ミゼルジュを首を小さく横に振る。
「そうか。ならココからの行動はリーダー判断という事になるな」
 言いながら俺はこの施設のマップを頭の中に思い浮かべた。
 今、俺達が居るのが丁度地下二階の中央付近。このモニター・ルームを出て右に進み、個室の立ち並ぶ通路を真っ直ぐ抜けて行けば地下3階に降りられる。下のフロアに有るのは円形の巨大な空間。そしてソレを取り囲む様にして配置された6つの部屋。
 恐らく円形の部屋がメインで使われている実験室だろう。ロスト・チルドレンのサイキック・フォースを試し打ちさせる。そしてその周りがデータの解析空間になっているといったところか。
 大体どんな施設も、最も重要なデータは一番奥に隠してあるものだ。最後の砦として死守するために。当然、これまでとは比べ物にならない程の反撃が予想される。
「どうする? 引き返す?」
「下に降りる」
 即答した俺にミゼルジュは言葉を詰まらせて目を丸くした。
「……オッケー」
 が、リスリィの方を見ながら、しぶしぶといった様子で頷く。
 何だかんだで面倒見がいいな。同じバックアッパーとしての友情がそうさせるのか?
「けど、ホントに大丈夫? バックアップ無しで……」
「丁度良いさ。あのでたらめな誘導に振り回されるよりは、自分の判断で行動した方がすっきりする」
 この部屋だって、周りには生体反応が無いと言われて来たのに、結果あの様だ。最初から敵が居る事前提で、警戒しながら進んだ方がよっぽどましだ。複数体のロスト・チルドレンに、こんな狭い所で不意打ちを食らってみろ。死んだ事にすら気付けないかも知れない。
「あの、さ……」
 部屋の外を見回し、遠くの音に聞き耳を立てていた時、ミゼルジュがどこか苦しそうに声を掛けてきた。だが俺は何も返さず、セーフティールートの抽出に専念する。
「やっぱり、そうだった……」
 壁、床、天井、すべてに金属が敷き詰められている。通路も部屋も。なら音にしろ熱にしろ、伝導率は極めて高い。今のところ、右から直接地下に向かっても抜けられそうだが……。
「さっきのデータ……多分、アンタが開いたフォルダだと思うんだけど……」
「フォルダ?」
 ミゼルジュの言葉に脳が無意識に反応した。
「アタシらの情報、オッドカードの……」
「あぁ」
 アレの事か。
 都合よく通信も出来なくなって、今この場で聞きたいという衝動を抑えられたと思っていたのにな。また厄介な話題を持ち出してくれたものだ。
「あの……上で会ったロスト・チルドレン……アンタが殺した……」
「アイツがどうかしたのか」
「この子の前の……『ハート・テン』……」
 最初、言われた意味が良く分からなかった。
「リスリィがアタシ達のチームに来る前に、アタシ達と一緒に居た奴……」
 リスリィが配属される前の『ハート・テン』?
 ソイツが死んだから、リスリィが代わりに補充された……。
「覚えて、ないよね……? アタシだってもう曖昧だったから、アンタの事だから絶対忘れてると思ってた」
 感情が抜け落ちたかのような乾いた笑みを漏らし、ミゼルジュは続けた。
「さっき上で見た時、ひょっとしてって思ったんだ。でもあんまり自信無くて……。そしたらあのデータベースにアタシらの事入ってて……。ちゃんと、あったのよ……顔写真とコードネーム。間違いなかった。あの子、アタシらのチームに居た子だった……」
「ソイツはどうやって死亡確定になったんだ」
「覚えてない……そこまでは覚えてないけど……目の前で彼の死体を見た訳じゃなかったと思う」
 つまりどこかに閉じ込められるか、敵に捕らわれるかして、救出不可能と判断したわけだ。そして見捨ててきた。テロは可哀想なソイツを拾い上げ、貴重な実験素体として扱った。ロスト・チルドレンへと姿を変えたかつての仲間は、復讐のために俺達の敵として立ち塞がった。
 涙で溺れそうな程、陳腐で下らないストーリーじゃないか。馬鹿馬鹿しい。
「テロとやり合っていれば、そういうケースも生まれるさ。俺達がロスト・チルドレンを捕まえて実験材料にしてるのと同じ事を向こうもやってるだけだ」
「う、うん……」
 腑に落ちない様子で、苦々しく頷くミゼルジュ。
「人の事より自分の心配をしろ。お前がロスト・チルドレンになったとしても、俺は躊躇い無く殺すぞ」
 言い捨てて俺は部屋を出る。そしてマグナムを構えながら、通路を右へと進んだ。
 そう。別におかしな事じゃない。長い間戦いを続けていれば、こういう事が起こる確率は加速度的に増していく。政府の情報がテロにハッキングされて、漏れるという事だって十分起こり得るさ。
 政府の情報……? なら、あの“当機関”というのは……。だか“素体”と……。
 いや考えるな。余計な事は頭に残すな。全部忘れてしまえ。今せっかく良い気分になっているのに。
 政府やテロは関係無い。今俺がしなければならない事は、下の階に降りて最重要情報を仕入れてくる事だけだ。そして可能であれば『太陽の亡骸』を手に入れて、後は下から順番に爆破してソレで終わりだ。
 全部埋めて、最初から無かった事にして……俺も何も見なかった事にして……。

 地下3階は予想通りの構造だった。通路が円を描くように湾曲しながら伸び、等間隔に6つのドアが並んでいる。残念ながら、中央の巨大な空間に直接通じていそうな通路は無い。どうやら部屋の中を横切って行く構造になっているようだ。
 その事は別にいい。さほど大きな問題ではない。
 だがこの静かさは何だ。上でアレだけ派手なお出迎えをしてくれたんだから、もっと凄いのを期待していたのに、全くもって拍子抜けだ。
 銀色の通路だって綺麗なものだ。戦った形跡が全く無い。弾痕も無ければ、血の臭いもしない。
 他のチームがこの階にたどり着く前にやられてしまったのか、あるいは……。
 俺は1つのドアの前に立ち、耳を付けて中の音を窺う。鼓膜が振動として感じ取れる物は無い。そして人の気配も無い。
 嫌な感じだ。欲しい物があるのなら、罠に飛び込んでこい。そう言われているみたいだ。
 最も重要な情報を一番奥に隠し、敢えてそこを手薄にしてトラップを仕掛けるというのは、知的障害者グロスでも分かりそうな常套手段だ。
 そしてそう考えた侵入者の行動を先読みし、すでに退路には兵が配置されているというのも良くある話だ。
 まぁいいさ。罠だろうが何だろうが行ってやる。後戻りするつもりなど最初から無い。
 俺はミゼルジュに目配せし、ドアのロックを解除するように指示する。すぐに頷き、彼女はカードリーダーに針状のハッキングツールを何本も差し込んで作業を始めた。
 そしてほんの数秒後、短い電子音がしてドアが左右に割れていく。俺は横手に身を潜ませ、顔だけを中に向けて――
「問題無い」
 小声で言ってマグナムを構えたまま室内に足を踏み入れた。やはり人の気配は無い。有るのは2台のコンソール。上にあったような旧式ではなく、政府の一部でしか使われていないような最新式だ。パネルは電子タイプで、扱うデータの種類に応じて自動最適化された物が、立体ホログラムとして浮き出るようになっている。モニターは多次元画像処理にも対応したシグマ・グレード。
 その2台に挟まれるようにして、ガラス製の扉が鎮座していた。一見しただけで、最低でも6重層殻は有りそうな超強化ガラスだ。
 そしてその向こう側には例の巨大なホール。床が中央付近で大きく沈んでいて、円形というよりは球形の空間になっている。真上から冷たい光がスポットライトのように降り注いで、中を明るく照らし出してくれてはいるが、生憎と舞台に上がっているアクターは居ない。そして観客も俺達だけだ。不気味なまでに静まりかえっている。
「『ダイヤ・フォー』、『ハート・テン』」
 俺の声に応え、ミゼルジュとリスリィがそれぞれ2台のコンソールに付く。その後ろ姿を見ながら、俺は警戒を解く事無く神経を張りつめさせ――
『逃げろ!』
 突然耳の奥で大声が響いた。
 直後、空気が抜けたような音がしたかと思うと、背後の金属ドアが閉まる。ソレと連動するようにして、巨大ホールへと繋がるガラス扉が開いた。
 そして辺りに急激に立ちこめ始める、濃密な血と臓物の臭い。
「また、お友達だねぇ〜」
 近くで聞こえる場違いに間延びした声。
 いつの間にか巨大ホールに、白の貫頭衣を着た奴等が3人立っていた。
「ロスト・チルドレン……」
 今更のように反応し始める角膜カウンター越しに睨み付けながら、俺は舌打ちして呟く。
 やっぱり罠か。だがさっきまであそこには誰も……。
瞬間移動トリック・アンビュレーションだ! いいか落ち着け! 1人はそのサイキック・フォースを使う運び屋! 残りの2人がアタッカーだ! ソイツらに気を付けろ!』
 頭の隅々まで響くヴェインの大声。今までダンマリだったくせに。心臓に悪いだろ。
 ああ分かってるさ。わざわざお前に言われなくても。茶色い髪の奴が両手に持ってるのが、知ってる顔だからな。
 『クラブ・ナイン』と『ハート・ワン』。この地下施設に来る時、武装運搬車輌で絡んできた2人だ。両方とも下半身が綺麗に無くなっている。アレじゃもう女を満足させる事もできないな。可哀想に。
「『ダイヤ・フォー』、『ハート・テン』、後ろの扉のロック解除だ」
「で、でも……!」
「時間は俺が稼ぐ。死にたくなかったら死ぬ気でやれ」
 言い残し、俺はマグナムを構えてホールへと向かう。
 相手のK値は左から順に314、1050、415。多分、真ん中の奴がヴェインの言っていた運び屋だろう。まずはこの鬱陶しい奴から片付ける。
 大丈夫。必ず勝てる。予感がする。確信がある。
 何より“自信がある”。
「うふぁは。キミは、どんな玩具が好きぃ?」
 右端の茶髪が危ない笑みを張り付かせながら『クラブ・ナイン』を片手で掲げた。そして頭部に指をめり込ませたかと思うと、顔面が内部爆発を起こす。まるで出来損ないのファイアーフラワーのように、赤黒い肉片を飛び散らせる『クラブ・ナイン』。いや、“『クラブ・ナイン』だった物”。無様過ぎるな。
「リクエストに応えてくれるのか?」
 言いながら俺はマグナムを突き出し、
「んー、んー。なーにー?」
「動かなくなったお前らだよ」
 真ん中に居る長い髪の少女を撃ち抜いた。
 が、眉間を狙ったはずの1発は、彼女の眼前に現れた氷塊にめり込んで動きを止める。
 炎の次は氷か。色々と種類を取り揃えてくれる。飽きが来なくて助かるな。
「あはっ、あははっ、ははははっ」
 壊れた笑みを浮かべる茶髪を後目に、俺は床を蹴って横手に回りこんだ。一瞬で3匹の側面が視界に晒される。
 軽い。本当に体が軽い。まるでインサート・マターを発動させたかのように。
 いや、無意識に使っているのか? まぁいいさ。別にソレでも。玩具を逃がすよりよっぽどマシだ。
 俺はそのまま勢いを殺す事なく、彼らの背後へと走り込みながら弾丸を放つ。弾は完全な死角から少女の頭蓋へと狙いを定め――
 消えた。
 3人の姿が一瞬にして目の前から。
『左後ろだ!』
 耳元で響いた声に反応し、俺は顔を向ける事なく右前に6点バーストを撃ち出す。
「あっれー?」
 間延びした声が聞こえ、
「……っ」
 何かを喉に詰まらせたような声が続いた。
 顔を向ける。髪の長い少女がうつ伏せに沈んでいた。
 自分の下に真っ赤なシーツを敷いて。
「まず1匹」
 嘲笑を交えて言いながら、俺は残った2匹から距離を取る。
 この球状の空間。実に使いやすい。当てる角度を少し変えるだけで、跳ね返る方向が激的に変わる。跳弾を狙うには絶好のロケーションだ。
「すごーい、すごーい」
「リクエストはまだ終わってないさ」
 拍手を送ってくる巻き毛の少年に返しながら、俺は精密射撃トリガー・ポイントを発動させる。
「――ッ!」
 目眩さえ覚える圧倒的なディーテール。脳内で同時併走する多重思考。初めて体験する精密性、緻密性、距離感、立体感――かつて無い、純度。
 今なら十数秒先の事さえも正確に予測できそうな気さえする。
「いー……くー……よー……」
 茶髪の少年の声がスローになって鼓膜を揺さぶる。ソチラに銃口を向け、しかし腕はすぐに反応しない。
 意識だけが加速している。結果が先に映像として送られてくる。頭の中のイメージと現実の行動が大きく剥離している。
 そしてようやく2つが重なり合った時、相手はすでに仕掛けてきていた。
 空気が爆発して来る。
 ロスト・チルドレンと俺との間に不可視の導線でも張られたように、直線的な軌道を取って破裂の力が急迫して来る。
 このまま撃てば銃の暴発で間違いなく自滅する。なら――
 俺は身を低くし、残り2つのインサート・マターを発動させた。両脚をたわめ、何倍にもなった脚力を解き放って正面から距離を詰める。背中で連続的に撒き起こる爆発の衝撃。ソレを受け流しながら、ロスト・チルドレンの真下に躍り出た。
「チェックメイト」
 そして彼の股間に銃口を当て、トリガーを引き絞る。
 速射した何発もの弾は体内に潜り込んで真上へと進み、脳天を貫通して中空を泳ぐ。そのまま真紅の放物線を描き、床へと落下した。
 コレで五分五分だな。男の部分を無くすってのは辛いだろ?
『後ろ!』
 耳に突き刺ささるヴェインの叫声。
 煩いな。分かってるさ。お前に言われなくても、そのくらい――
「ち……」
 いきなり正面に現れた巻き毛のロスト・チルドレンに、俺は銃口を向けながら距離を取った。
 見誤った。運び屋はあの女じゃなかった。K値314。サイキック・フォースは1つだけじゃない。他にも何か――
「――ッ!」
 その後ろ。さっき殺したはずの茶髪にも角膜カウンターが反応する。
 K値246。殺す前よりも下がっている。1階で戦ったあのロスト・チルドレンと同じだ。生き残るために最後の人間性を差し出した。
 ならコイツらも元オッドカード? いや、人間が素体だからか? もし巻き毛の方もコイツみたいにK値を下げられたら……。
 どうする。脳天や心臓を打ち抜いて殺しても逆効果だ。なら――
「……フン」
 頭の中で結論を弾き出し、俺はマグナムをガンホルダーを戻した。そして立ち止まり、肩の力を抜いて息を吐く。
『アディク止まるな! 恰好の的だぞ!』
 ああ煩い。邪魔だ。
 耳の奥に指を突き入れて超小型振動機を潰し、俺は改めてコンセントレーションを高める。耳の穴が少し裂けたのか、ぐずぐずと湿っぽい音がするがまぁいい。あの怒鳴り声よりはよっぽどマシだ。
 巻き毛が離れた場所で爪を鉤状に折り曲げる。薄ら笑いを浮かべながら、ソレを無造作に横に薙ぎ――頭を低くした俺の髪をさらって行った。
 透明の刃物、か……。見えない爆弾といい、隠れてコソコソやるのが好きだな。そんなに自分に自信が無いのか?
 巻き毛が姿を消し、その後ろに居た茶髪がコチラに手を差し伸べた。彼が前に出した5本の指それぞれから爆発が放たれ、回りこむようにして迫ってくる。
 俺はぎりぎりまで引き付けて横に跳び、着弾点から身を逸らした。直後、コチラの動きに先回りして、着地点の金属床が引き裂かれる。
「惜しかったな」
 だが俺はそこに居ない。ショットガンをガンホルダーに入れたまま撃った反動で僅かに滞空し、一呼吸遅れて床に降り立つ。
「じゃあ、もーいっかい」
 鼻に掛かった甘ったるい声を出しながら、巻き毛が眼前に姿を見せた。
 俺は精密射撃トリガー・ポイントを発動させ――ハンドガン・モードに切り替え――少年の指先の景色が歪んで――弾を撃ち――右下から振り抜かれ――
「あっ……」
 相手の指の数が半分以下になった。
 銃を持っていた腕も深く抉られたが、大した傷じゃない。刃は体にまで達しなかった。
 2人とも同じだ。コイツらのサイキック・フォースは指から出る。ソレは“見ていて”分かった。
 そしてもう1つ。コレは1階で戦った奴にも言える事だが、どれだけサイキック・フォースの種類を持っていても、2つ同時には使えない。
 だから今、攻撃のタイミングが少し遅れた。瞬間移動して来て、別のサイキック・フォースを使うまでに僅かなタイムラグがあった。だから先に俺の銃弾が命中した。
 手札は1枚ずつしか出せない。そして2人居るとなれば、やる事は自ずと決まってくる。
 俺は巻き毛から距離を取り、茶髪の方に視線をやった。
 すでに両手をコチラに向けている。10本の指先から放たれた爆発鎖はバラバラに動き、しかし確実に俺の方に接近して――
 全てのインサート・マターを発動させる。
「つー……かー……」
 そして何の前兆も無く背後から声が聞こえ、
「まー……」
 右脚を基軸にして左足で床を蹴り、生じた遠心力に引かれながら体を回転させる。
「……え――」
 視界に映ったのは巻き毛の後ろ姿。
「じゃあな」
 彼の背中を蹴り飛ばし――
「――た」
 爆発した。
 茶髪のサイキック・フォースに身投げし、全身を細切れにさせた。
 血と肉の灼け焦げた臭いが入り交じり、不快な異臭が充満する。
 そう来ると思っていた。1つずつしか出せないのであれば、互いに能力を補完し合うのは当然の事。
 当たれば破壊力はあるがスピードに乏しい爆弾鎖を使う茶髪。相手との距離を無効に出来るが、すぐには攻撃に移れない巻き毛。
 なら2人の力を最大限に活かすには、巻き毛が俺を押さえつけて茶髪のサイキック・フォースをぶつければいい。実に効果的だ。
 無論、成功すればの話だが。ソレを読まれて逆に利用されたのでは無様なだけだな。
 コレだけ粉々になればもう復活は出来ないだろう。残るは1匹……。
「アディク!」
 さて、どうやって壊そうか。
「開いたわ! もういいわよ! 逃げて!」
 煩いな。今いいところなんだ。邪魔するな。
「アディクさん!」
 殺すか。コイツらを先に。
 そうだな。ソレがいい。
 大丈夫、間違っていない。今の俺が考えている事は全て正しい。大丈夫だ。
 自信があ――
「が……」
 喉の奥から込み上げて来た物をぶちまける。ソレは赤い赤いパーティーワイン。気泡の混じった、出来の悪い不味そうな……。
 ナンダコレハ。気分が悪イ。頭痛ガ酷い。体がアツい。メの前がまっくらニ……。
 ――アディクさん前!
「ち……」
 耳鳴りに聞こえるリスリィの声に反応し、俺は床に転がってその場から離れる。
 次の瞬間、さっきまで俺が居た場所が破裂した。その爆風をまともに食らい、体が無重力感に包まれたかと思うと背中に強い衝撃が走る。
「ガ……!」
 押し出された呼気が食道を削り、血化粧されて目の前を舞った。
 ――アディクさん……!
 ――左持って! 逃げるわよ!
 雑音が吐き気を増幅する。体の揺れが直接脳を振動させる。
 触るな。余計な事をするな。置いて行け。動けない奴は“物”だ。役に立たないゴミだ。
 それが無意味に死んで行く奴の末路なんだ。
 そう。俺はこのまま無様に死んで、アイツらと同じように――
「放、せ……走れ、る……」
 自殺したくなるほど情けない小声で言いながら、俺は2人の腕を押しのけて自分の脚で立った。すぐに膝が落ちるが、手を伸ばした先にあった壁を支えに踏ん張る。
「ああそう! そりゃ助かるわ! じゃあとっとと付いて来なさい!」
 すぐ側でまくし立てるミゼルジュ。彼女の顔が3重にブレて見えた。
「ヴェイン教官! どっちですか!?」
 聞いた事のないリスリィの大声。まさか俺がお前の背中を追うハメになるとはな……。
「アディク! 悪いけどゆっくり休んでる暇ないのよ!」
 そんな事言われなくても分かってるさ。脚を止めれば茶髪の爆発に巻き込まれて無意味な死だ……。まぁ、この施設に俺達が爆弾を仕掛ける手間は省けたがな……。
「スクールが! アタシ達の所が……!」
 何……? 何が言いたい……。コッチにはもう、難解な言葉を解読するだけの余裕は無いんだ……。もう少し分かり易く言ってくれ……。
「アディクさん! テロです! インナー・スペースにテロが攻め込んできたって! さっきヴェイン教官から連絡が!」
 テロ共が……? そうか……ようやく本腰を入れて活動し始めたって訳だ。
 楽しくなってきたじゃないか。これからは下らない事を考える時間が減りそうだ……。
「早く……! 早く行かないと! あの人を……!」
 あの人? お前の大切な人って事か? 俺と違って随分と余裕だな。こんな所で色気づくなんて……。
「ミゼルジュさん落ち着いて! そっちじゃないです!」
「ああもぅ! ウルサイ!」
 リスリィの言う通りだな。こう言う時こそ落ち着かなければならない。まぁ、ヴェインの誘導を信用するならの話だが……。
「アディクさん大丈夫ですか!? もう少しですから!」
 俺の心配はいいから自分の事を最優先させろ……。特にお前はな。
「あと、有り難うございます。また改めてお礼に行きますから」
 だから意味不明なんだよ。頼むから分かり易い言葉で喋ってくれ……。

Inner Space #9.
City Area.
PM 03:09

―第9インナー・スペース
 シティ・エリア
 午後3時9分―
 
View point in カーカス=ラッカートニー

 イイねぇ! イイ感じだ! マジでイキそうなくらいにサイコーのテンションだ! ヤバいくらいにクレイジー・ロックだ!
 もう爆発寸前だったんだ! 謹慎だぁ!? ふざけんなよオイ!
 せっかく人が親切にゴミ掃除してやったってのに、何でペナルティ受けなきゃなんねーんだよ! 普通逆だろ! 常識的に考えてよぉ! 賞金くらい出せってんだ!
「なぁオイィぃ!」
 ガス欠で倒れ込んだクソガキの頭を叩き壊し、俺は次の獲物を探した。
 ロスト・チルドレンだか何だか知らないが、K値が3000もあるような出来損ない送り込んで来やがって! 殺る気あんのかよ! テロの皆様はよぉ! まぁ今までが無さ過ぎたってのもあるんだけどな!
「ッハハ! ッハハハハハハハ!」
 イイねぇ。マジでイイ。食い放題って訳だ。笑いが止まんねぇよ! ずーっと我慢してた反動ってのか! 溜めまくった後のアブノーマル・プレイって感じか! すげぇオーガスムだ!
 やっぱバーチャル相手とは全然違う! 比べモンになんねぇよ! コイツは!
「次はお前らがセックスの相手してくれんのかぃ?」
 デカい金属の箱にしか見えない一般ピープル共のお住まい。金属でコーティングされたバカデカい樹。その2つの間。
不細工な政府軍の戦車が寄ってくるのをバックに、2匹のロスト・ガキ野郎共がコチラをぼーっと見つめていた。K値は3056と3580。
 また雑魚だ。どーせ元がバイオドールなんだろ? 人間から生まれ変わった奴はいねぇのかよ。そろそろ飽きてきたんだがな。
「っ……」
 バカみたいにデカく響く爆音。そして炎に包まれるロスト・チルドレン共。
 後ろの戦車がブッ放しやがった。援護射撃のつもりか? ウザってぇ。邪魔なんだよ。お前らは。俺のデリケートな鼓膜に傷でも付いたらどうしてくれんだ。
 地面の金属プレートを歪ませて燃えていた炎が、マジなスピードで消えていく。更に戦車の砲身がぐにゃりと曲がり、そして内側から派手に爆発した。
「ヒューゥ」
 はーい、ざーんねーん。2発目はしっぱーい。テメーらはタルんでんだよ。外にも出ねーで、中でヌクヌク過ごしやがって。
「前戯はそのくらいでいいかぁ?」
 言いながら両腕の筋力増強ハイ・ブースト耐久強化ソリッド・アーマ、後頭部の神経暴走オーバー・ブラストを一気に発動させる。
「俺がこれからブっといのブチ込んでやるからよぉ!」
 叫んで地面を蹴り、真っ正面から2匹に突っ込んだ。
 1匹がコッチに両手をかざす。そしてもう1匹は炎を纏ったままユックリと歩み寄り、
「っとぉ!」
 視界が空気のねじれをキャッチして、俺は反射的に横に跳ぶ。まばたき1回。ィギ、とエグい音。俺が突っ切る予定だった地面の金属が、カリカリに焼き上げたパイ生地を弾いたみたいに飛び散った。
 目の前にはファイアー・ダンスの誘いに来たロスト・ガキ。ソイツが火をスティック状に固めて突き出してくる。
「ハン!」
 炎の揺らめきの1つ1つまで正確に捉え、俺は首を傾けながら加速した。火使いのガキの顔がグンと大きくなり、その勢いに乗せて顔面を鷲掴みにする。
 ご、というくぐもった音が、掴んだ手から伝わってきた。
 脆いねぇ。ちょっと力を入れただけなのに、頭の骨が折れちまった。踊る気が無いなら、最初からじっとしてろよ。そーすりゃぁ―― 
「気持ち良くイカせられたのによぉ!」
 逆の手でガキの胴を貫き、そのまま手を伸ばしてもう1匹の首を締め上げる。そしてスーパーモデルみたいな“くびれ”が出来たかと思うと、顔と胴体がグッバイした。
「へっ」
 一瞬で積み上げられた2つのダッチワイフを見下ろながら、俺は制服にべっとりと付いた血を舐め取る。
 不味い。腐ったホワイトジャムみたいな味がする。コレじゃいくら食っても昂ぶりが収まらない。
 足りねぇ。量も質もマジで足りねぇ。
 アディクの野郎は今頃もっと楽しい事してるってのに……。
 こんなんじゃダメだ。こんな安物相手にしててもイライラするだけだ。フヌけた政府の軍人共の練習台くらいにしかならない。
 居ねぇのかよ。もっと、もっとハッキリ教えてくれる奴が。
 俺の方が上だって。アディクなんかより、ずっと――
「オイ! 暇そうだな!」
「あァ?」
 後ろから声を掛けられ、俺は振り向きながらソイツを睨み付けた。
 黒の制服に黄色い縦ラインが1本。『ダイヤ・ワン』。オッドカードか。
「来いよ! 100台の奴が居るってよ! しかも2人!」
 顔に付いた返り血を乱暴に拭い取りながら、『ダイヤ・ワン』は楽しそうに言う。
「100……」
 K値が、100台……?
「マジなんだな?」
「助けてくれー、だってよ!」
 あわてふためくリアクションをして見せながら、彼はおどけた口調で返した。ソレだけ言い残し、ソイツはまた走り始める。あっちはスラム・エリアの方……。
「100台、ね……」
 普通なら即ランナウェイだ。そんな奴とじゃ殺し合いにならない。一方的な虐殺だ。
 3000から一気に100かよ……。真ん中は用意してねーのか。ったく。
「笑えるねぇ……マジで笑える」
 俺は誰に言うでもなく呟き、そして『ダイヤ・ワン』の後を追った。
 そう来なくちゃな。ソレくらいの奴でないと俺に教えてくれない。
 俺は強いんだって。俺には力があるって。自分を……この掃き溜めみたいな世界で生き延びさせる力があるって。
 ココで死ぬんだったら、まぁそういう事なんだ。デッドラインがちょっと早くなっただけだ。生きたまま死んでるのか、マジに死んで死んでるのかの違いだけだ。
 どちらにしろ答えが出る。
 コイツに付いて行って、100台のロスト・チルドレンを2匹拝めば答えが出る。
 イイね。イイ感じだ。
 ずっとモヤモヤしてた掴み所のない不安からようやく解放されるって訳だ。もうすぐハッキリするんだ。
 サイコーだ。マジサイコーだよ。ココに残ってて良かった。謹慎食らってラッキーだった。
 そうさ。俺のしている事は間違っちゃいないんだ。アディクの奴みたいにスマートには行かねーけど。回り道ばっかしてるかも知んねーけど。何1つとして間違っちゃいな――
「――ッ!?」
 突然目の前が白く染まった。
 反射的に腕で目を庇い、光のオーバーフローから身を逸らす。が、網膜がイカれ、すぐに見えるようにはならない。
 何、だ? 今のは? 閃光弾? けど一瞬バカデカくそそり立った、あの柱みたいなのは……。
 尋常なエネルギーじゃない。ロスト・チルドレンだ。間違いない。K値が100台の奴ってのは、あんな力をブン回すってのか? マジかよ……。
 ……クソッ。ちょっとチキン入っちまったじゃねーか。けど、逃げない。絶対に逃げねぇ。あそこに答えがあるんだ。今更ケツの穴おっぴろげて醜態晒す訳にはいかねぇ。
「チッ」
 舌打ちし、ようやく元に戻った視界でスラム・エリアの方を捉え直した。
 一般人らしきババアの死体を踏み越え、戦車のスクラップが転がったメインストリートを抜ける。スクール・エリアへと続く道から逸れ、暗く湿っぽい気配の漂うバックストリートを進んだ。
 慎重に……。自然と、走るスピードが落ちて……。
 地面の金属プレートが腐食しきった、外壁沿いの廃墟。立ち並ぶのは、汚い鉄板を寄せ集めて作った即席の住処。まるで形の揃っていない個性的な寝ぐらが、棺桶ボーン・ボックスみたいに立ち並んでいる。
 もうこの辺はスラム・エリアだ。さっきの光の柱が見えた辺りだ。
 なのにカウンターが何も反応しないってのはどういう事だ。
 クソッ、嫌な感じだ。胸クソ悪いモンが、腹の底からこみ上げて来やがる。ヤベェヤベェって、首のもげた妖精さんが頭の中で喚き立てやがる。
 何だ。何なんだ。普通じゃない。さっきからこの雰囲気は尋常じゃない。
 ロスト・チルドレン? 本当にそうなのか? 俺だって200台の奴になら何回も会った事がある。逃げた事もある。まともにやり合った事もある。アディクの野郎と一緒にだが……。
 けど今はそんなモンとは全く違う。質が違う。次元が違う。
 まだ見てもないってのに、さっきから収まりやがらねぇこの震えは何だってんだ……クソ! 100台ってのはそんなエグいモンなのか……。
「よぉ」
 外壁の近くでした声に、俺はインサート・マターを発動させて振り向く。
「やっと来たな」
 立っていたのは『ダイヤ・ワン』。俺を誘いに来た野郎だった。
 俺は大きく舌打ちしてインサート・マターを解き、ソイツを思い切り睨み付ける。
「そんなにビビんなよ」
「あぁ?」
 バカにしたような声でホザくクソ野郎に近付きながら、俺は右腕のインサート・マターを発動させ直し、
「もう終わった後だ。ちょっと遅かったな」
 薄く開いた目が向けられた先に、俺の視線も釣られて動いた。
 ソレはゴミだった。ただの黒い塊。剥き出しになった地面が少し変色して、盛り上がっただけの……。
「居るモンだねぇ、上には上が。あっと言う間だったぜぇ? 2匹いっぺんに消し炭になるの。K値100台っつったらもう完全に化け物レベルなのによ」
 へらへらと軽薄に笑いながら言い、『ダイヤ・ワン』は黒い物体に近寄る。そしてブーツの先でソレを蹴り飛ばし、宙に舞った破片にまたケラケラと明るく笑った。
「変なフード着たデカい野郎だったなぁ。何なのかは知らねーけど、政府が裏で飼ってる隠し球ってところかぁ? ケッサクだなぁオイ」
 まさかアレが……今このバカが弄んでいる黒いヤツが、ロスト・チルドレン……? その死骸……? K値、100台の……?
「俺はソイツを見つけるぜ。さっきはブルっちまって動けなかったからなぁ。ケッサクに情けねぇ」
 K値が、100……。けどソレを一瞬で……。
 信じられない。信じたくもない。敵とか味方とか、そういう問題じゃなくて。俺なんか全然……話にもならない奴が、ゴロゴロと……。俺なんか下の下で……。
「それに何つったって仇だからよ、カ・タ・キ。ッハハ! 笑えるだろ? 仇だよカタキ。今はもー真っ黒で何にも分かんねーけどよ、コイツら元々俺のチームの奴等だったんだよ。死亡確定食らっちまった。そんで感動の再会が敵同士だろ? けどちょっと目ぇ放した隙にお亡くなりなっててよ。ケッサクだよケッサク! 大ケッサク! ッハハ!」
 きっと、コイツも上なんだろう。俺よりも上……。そのフードの殺戮マシン見る前に、K値100でビビっちまってた俺よりも上だ……。何だよソレ。アディクだけじゃねぇのかよ……。アディクなんかを目標にしてる場合じゃねぇんだよ……。
「そんじゃな。このドンチャン騒ぎが収まって、御縁があったらまたお会いしましょうぜ、ダンナ。へっへ」
 コレが答えか。こんなモンが……。クソ下らねぇ……。
 結局無理だって事かよ。俺には届かねぇって……。このまま先に進んだってバカ見るだけだって……。
 なら諦めろってか? このままクソ虫みたいに惨めなツラ晒して、不安にビクビクしながらのたれ死ねってか?
 嫌だ。絶対に嫌だ。こんな答えはクソ食らえだ。
 変えてやる。変えてやるんだ。もっと力を付けて、自分を根底から……。
 けどどうすればいい。どうすれば、根っこの部分から……。黒い塊にならないために……。アディクなんかより……。頭のシナプスが切れまくった、さっきの奴――
「そぅ、か……」
 何だ。簡単な事じゃないか。
 思い付いてしまえばバカバカくらいに簡単な事。どうして今まで閃かなかったのか、頭を撃ち抜きたいくらいに腹が立つ。
「っはは……。そぅか。そういう事か……」
 意識の遠くの方で呟きながら、俺は黒い塊に近寄った。そして完全に炭化したソレを踵で踏みにじる。
「そうかそぅか。成る程。そりゃソレしかねぇわなぁ……」
 スッキリした。もう迷わなくていい。悩まなくていい。不安がらなくていい。
 やっぱり俺は間違ってなかった。
 ようやく、答えが見付かった……。

Inner Space #9.
City Area.
PM 05:22

―第9インナー・スペース
 シティ・エリア
 午後5時22分―
 
View point in リスリィ=アークロッド

 私達がインナー・スペースに到着した時、中は見るに耐えない惨状だった。
 街が原形を留めていない。
 頑丈な金属で出来ているはずの家々は、何か強い力で押し潰されてへしゃげ、硬いプレートで覆われていた地面は、痛々しい程に捲れ上がって焼け焦げた地肌を剥き出しにしている。道路には数十メートルに渡って大きな亀裂が走り、割られた樹木や希少な芝生は未だに燃え続けていた。
「何、コレ……」
 まとわりつく空気から伝わってくるのは戦いの余熱。あちこちで上がっている嗚咽と哀しみにくれた声。
 あそこでうずくまっているのは人……? じゃあその前にある黒くなった物は……?
「……遅かったみたいだな」
 私達が乗ってきた武装運搬車輌の方から声が聞こえる。
「あ、アディクさん! まだじっとしてないと……!」
「煩い……。人の事より自分の心配をしてろ。俺は……大丈夫だ」
 血で頬に張り付いた黒髪を鬱陶しそうに払いのけ、アディクさんはおぼつかない足取りで街の方へと歩き始めた。
 どうみても大丈夫なんかじゃない。当たり前だ。だって、あんなに強いロスト・チルドレンを何人も相手にずっと1人で……。生きてる方が不思議なんだ。アディクさんじゃなかったら、絶対にやられてる……。
「あ、あの! 私の肩でよければ……!」
「煩いな……大丈夫だって、言ってるだろ……。邪魔だ……」
 言いながらアディクさんは、太腿のガンホルダーから銃を取り出し、
「……っ」
 バランスを崩して倒れそうになったところを、何とか支え起こした。
「離せっ……」
 アディクさんは私を力ずくで引き剥がそうとするけど出来ない。それだけ弱り切っているんだ……。あの、アディクさんが……。
 しばらくもがいていたけど、少しして観念してくれたのか大人しくなった。
「……だからお前はいつまで経ってもバックアップなんだよ」
「それで、いいです」
 そっぽを向きながら嫌そうに言ったアディクさんに、私は頷いて返す。
「私にはバックアップが向いてますから。アディクさんだってそう言ってくれたじゃないですか。人には向き不向きがあるって」
「……馬鹿が」
 鈍色の瞳を細くして睨み付けてくるけど全然恐くない。今はそんな事よりも誇らしい。私なんかが、アディクさんの助けになれるなんて……。そう思うと、ちょっとだけ自信が湧いてくる。この人の側に居れば変われる気がする。私なんかでも、少しは前向きに生きて行けそうな気がする。
「あの、これからどうすれば……」
「スクールだ……」
 私の声にアディクさんは即答した。
「政府の軍事機関は駄目だ。もう殆ど壊滅してるさ……。ココに転がってる重装戦車と機械兵の数……いくらなんでも少なすぎる。真っ先に武器庫がヤラれた証拠だ……。なら今頃、シェルター代わりになるスクールのレクチャー・ルームに集まってるはず……。そこに行く」
「わ、分かりました」
 鋭い視線でスクールの方を見ながら言ったアディクさんに、私は何度も首を縦に振って歩き始めた。
 凄い。さすがアディクさんだ。やっぱりこの人しか居ない。
 いつも自信たっぷりで、判断が冷静で的確で、それに信じられないくらい強くて。
 別に隠れ蓑にしている訳じゃないけれど、この人の側に居ればなんとなく安心できる。この人に付いて行けば間違いないって思える。そしていつか、私1人でも……。
「ヴェインの野郎にも、色々と聞きたい事があるしな……」
 私の肩を掴む手に力を込めながら、アディクさんは口元を歪めて言った。
 色々……。多分、さっきの地下施設で見たオッドカードの個人データの事だ。
 確かに私も、出来るのであれば納得のいく説明が欲しいと思った。武装運搬車輌の中ではアディクさんの応急処置に手一杯で、そんな事を聞いている余裕なんか無かったから。
 けど、何となく聞いてはいけない気がする。本当に何となくで、自信なんて無いけれど……。
「2人……大丈夫でしょうか……」
 大きく穴が開いた地面を避けて通りながら、私は呟いた。
 ミゼルジュさんは到着するとすぐに飛び出して行ってしまった。武装運搬車輌の中でもずっと真っ青で、話し掛けられるような雰囲気じゃなかった。そしてミゼルジュさんの後を追ってヴェイン教官も居なくなった。
 今はもう、戦いが終わってるみたいだけど……もしかしたら……。
「大丈夫さ」
 私の不安を拭い去ってくれるかのように、アディクさんは言い切る。
「あのタヌキがそう簡単にくたばるはずない。一応、元オッドカードなんだろ……? それに、いつの時代でも悪人は長生きするもんさ……」
「悪、人……?」
「そうさ」
 顔を私の方に向け、アディクさんは口の端を大きく吊り上げる。
「アイツは極悪人だ。俺ら以外のチームの奴等は全員、アイツが見殺しにしたんだ。デタラメの情報吹き込んでな」
 そして目を大きく見開き、底冷えする笑みを張り付かせて言った。私でもはっきり分かる程の殺意と狂気を双眸に宿らせて。
 戻って来たのは……私達だけだった。チーム・アルファもチーム・ベータも、誰1人としてココには居ない。でも……。
「他のチームは……きっと私達より先に着いて、もうスクールに行ってるんですよ」
「車は残っていたのに? ココまで走って来た? 笑わせるな。アイツらは今頃仲良く地下墓地で寝てるさ。暴走して自滅した、あのロスト・チルドレンと一緒にな」
 早口に言うアディクさんに、私は何も返せず俯いた。
 あの時、もう逃げるだけで精一杯だった。後ろから追い掛けてくる爆発に巻き込まれないよう、ひたすら脚を前に出す事しか考えられなかった。耳から入ってくるヴェイン教官の指示に従う以外、頭が受け入れようとしなかった。
 だから周りを見る余裕なんて無かった。他に生き残りが居るかどうかなんて、確認できなかった。けど……。
「きっと、生きてますよ……」
 そう思いたい。そうであって欲しい。それに――
「それに、ヴェイン教官もきっと悪い人じゃないです」
 今までずっとお世話になってきたし、私1人でやらなきゃならないミッションにアディクさんを加えて助けてくれた。それにあの地下施設からの脱出だって、ヴェイン教官の指示がなかった絶対に出来なかった。だから……。
「ハッ」
 横からアディクさんが鼻で笑う声が聞こえた。
「相変わらず頭がバカっ晴れクリアースカイだな。出来る事なら、ココで腹抱えて笑い転げたいモンだ。お前が一人前に意見してくれたお礼にな。ま、面倒臭いからやらないが」
 え……? い、意見? 私が? あ、アディクさんに……?
「そ、そんなつもりじゃ……」
「じゃあお前ならこういう時、何を考えてどう行動するんだ?」
 言いながらアディクさんは私から身を離して銃を構える。
「え……?」
「最高に無様な最期になりそうだ」
 自嘲めいた笑みを浮かべながら向けた視線の先には、
「ロスト……チルドレン……」
 無邪気な笑みを浮かべた男の子。年齢は私達と同じくらいなのに、屈託の無い表情のせいか幼く見える。そしてその事が言いようの無い恐怖を掻き立てる……。
 K値カウンターの値は……296……。
「死ぬ覚悟は出来たか?」
 私の方を横目に見て言い、アディクさんは体を揺らしながら前に出た。
 もう銃の照準が定まっていない。足元が安定していない。
 少しは回復して来てるみたいだけど、とても戦える状態じゃない。
「さぁ来いよ。派手なヤツを1発頼むぜ」
 ダメ……。行っちゃダメ……。ソレ以上進んだら……。
 ヤダ。居なくなっちゃヤダ。やっと……やっと変わり始められたのに……。沢山お礼を言いたいのに……。
 何とかしなきゃ。私が何とかしなきゃ。アディクさんは私にとって必要な人。
 置いて行かれるの嫌だ。見捨てられるのはもう嫌だ。
「アディクさん」
 ソレならいっその事――
「私が先に死にます」
 消えてしまった方が良い。何もかも手放してしまった方がずっと良い。
 あんな辛い思いを繰り返すくらいなら、私は死を選ぶ。
「……好きにしろ。どうせ数秒の違いだ」
「はい。好きにさせて貰います」
 アディクさんを背中で庇い、私ははっきりと言い切った。
 ああ、何だろう。これから死ぬっていうのに凄く清々しい。ぎりぎりまで追いつめられて頭がおかしくなっちゃったのかな。
 最後だけど……本当に最後の最後だけど……。初めて心の底から自信を持てた。コレで間違いないんだっていう確信が持てた。
 有り難うございます、アディクさん。もう悔いは有りません。
「……あと、悪かったな。お前の髪、撃って」
 小さな声で、どこか恥ずかしそうに呟くアディクさん。なんたが堪らなく可愛らしい。抱き締めたくなる程愛おしい。カッコイイとか強いとか思う事はあっても、こんな風に感じた事は1度も無かった。
 場違いな考えだって事は十分判ってるけど、別に良いですよね? 最後くらい。
「私、貴方に出会えて本当に良かった」
 そして、ロスト・チルドレンの両手がゆっくりと持ち上げられ、
「……お前みたいな奴は本当にお前だけだったよ」
 その指先が放電して――
「さようなら」
 目の前が真っ白になった。
 体中から力が抜けていく。果てしなく落ちていく。
 もう何も見えない。何も感じない。
 コレが死ぬっていう事なの? コレが全ての最後なの?
 意外とあっけないな。思ったより全然痛くないし、全然恐くなかった。
 死んだ先はどうなってるのかな……。生まれ変わりとか有るのかな……。
 多分無理だと思うけど、もし出来るなら、今度はアディクさんみたいに――
「だいじょうぶ? おねえちゃん」
 誰の声? 聞いた事があるような気はするけど思い出せない。
「おわったよ? もうあんしんだよ?」
 終わった? 何が? 死ぬのが終わったって事?
「……お前らは」
 え? アディクさんの声? じゃあアディクさんも死んじゃったの? それで同じ場所に? え?
「あの、いつかは有り難うございました。この子のぬいぐるみを取り返して下さって」
 女の人の声……。この声も聞いた事がある。だんだん思い出してきた。
 確か、アディクさんと2人でしたミッションの帰りに……。
「ぼくこのひと、きらーい。だってこわいこと、かんがえてるもん」
 そう。スラム・エリアの近くで、変な4人組に絡まれていて……。
「でもこっちのおねーちゃんは、すきだよ。やさしいもん。ほんとうにぼくらのこと、しんぱいしてくれてたもん」
「そうね。ちゃんと恩返し出来て良かったわね」
「うんっ」
 綺麗な金色の髪をした、親子連れ……。
「え?」
 あ、コレ私の声だ。
「え? え?」
 どうなってるの? 私、生きて……?
「……お前らは何なんだ。それに、さっきの力は……」
「すいません、突然。驚かせてしまって。でも私達を助けてくれた貴方達なら、力になってくれるかと思って」
「何なんだと聞いている」
 アレ? 手の感覚がある。脚も……。起きあがれる?
「……私は、アミーナ=リーマルシャウト」
「リーマルシャウト、だと……?」
「はい。お察しの通り、ジュレオン=リーマルシャウトの妻です」
 見える。目もちゃんと見える。まだちょっと白いけど……私、本当に生きてる?
「あ、おねーちゃん。げんきになったー?」
「じゃあ、そっちのデカい知的障害者グロスは……」
「ユティス=リーマルシャウト。私とジュレオンの子供です」
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