貴方に捧げる死神の謳声 第三部 ―黄泉路からの慟哭―

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十三『シナした』


◆白い記憶 ―九重麻緒―◆
 最初に生き物を殺したのは三歳の時だった。
 今でもよく覚えている。
 靴の裏に残った、あの時の感触を。

『あら、セミさんねー』

 アレは幼稚園からの帰り道だった。母親と二人で手を繋いで、熱いアスファルトの上を歩いていた。ソレはまるで火に晒されているかのようで、喉はカラカラだった。
 景色は真っ白。
 空も、地面も。家も、車も、人も。みんな真っ白。
 白く白く染め上げられた世界の中、自分がじっと見つめていた物だけは色が付いていた。
 茶色と黒と、あとちょっとだけ白が混じっていた。
 薄い羽を震わせて、ソレは今にも止まりそうなくらいの遅さでよちよちと歩いていた。六本の足を一生懸命動かして、よちよち、よちよち、よちよち。
 きっとコレは赤ん坊なんだと思った。だからこんなにも小さくて、こんなにもゆっくりで、こんなにもよちよちしてるんだと思った。

『この子はね、もうすぐ動かなくなっちゃうの。だからそっとして置いてあげましょう』
 
 自分のすぐ横にしゃがみ込み、母親が言った。
 動かなくなる? どうして? なんで? だって赤ちゃんなんでしょ? これから大きくなるんでしょ? 今からたくさん動くんでしょ?
 あの時の自分は思った事を全て口に出した。全ての疑問を投げかけた。
 ソレを聞いて母親は少し戸惑ったような表情になり、小さく笑った後、

『この子はね、あとちょっとで死んじゃうのよ』

 意味が分からなかった。
 シヌってなに? 動かなくなることとどうカンケイがあるの? 動かないのはシヌことなの? じゃあぼくも止まったらシヌの? シヌってイタイ? シヌってコワイ? シヌってサビシイ? それともシヌってタノシイ? どうやったらシヌの? どうやったらシンだってわかるの?
 また、心の中に浮かび上がった事を全部吐き出した。
 母親は困ったような顔になり、

『もうちょっと……お兄ちゃんになったら分かるわ』

 曖昧に誤魔化した。そして自分の手を引いて、熱いアスファルトの上を歩き出した。歩いている間中ずっと、同じ事を何度も何度も聞いた。喉が渇いていた事なんかすっかり忘れて、まくし立てるように早口で聞いた。
 母親はその一つ一つに丁寧に返事をしてくれたが、自分が本当に知りたい事は決して教えてくれなかった。
 ――もう少し、大きくなったらね。
 返ってくるのは、そんな適当な言葉ばかり。そのたびに自分の中の不満はどんどん増していった。そして家に着く頃には我慢できなくなっていた。
 どうしても今知りたかった。
 『シヌ』というのがどういう物なのか。 
 道の上のアレが『シン』だらどうなるのか。
 だから母親が出してくれたオヤツを口の中にかき込んで、すぐに家を飛び出した。そして“アレ”があった所に行った。
 “アレ”はすぐに見つかった。さっき見た場所から殆ど動いておらず、もうすでに『シン』でしまったのかなと思った。しかし“アレ”はやっぱりよちよち、よちよちと歩いていた。
 まるで赤ん坊のように。まるでゼンマイ仕掛けのおもちゃのように。
 よちよち、よちよち、よちよち……。

 ――動かなくなったら『シヌ』。

 母親の言葉を頭の中で組合せ、自分は“ソレ”をずっと見続けた。
 真っ白な世界の中、唯一色を持っていて、唯一自分以外に動く“ソレ”を、ずっとずっと見ていた。
 しかし、いつまで待っても“ソレ”は動き続けた。
 よちよち、よちよち、よちよちと。六本の足を一生懸命動かして。よちよち、よちよち、よちよち、よちよち。
 なかなか『シナ』なかった。
 それから沢山待ってみても、“ソレ”は動き続けた。いっぱいいっぱい待っても、やっぱり“ソレ”は動いていた。
 そしてだんだん、我慢できなくなってきた。

 ――『シナ』ないんなら、『シナ』せばいい。

 ふと、そんな事を思いついた。
 動かなくなったら『シヌ』。でも動くから『シナ』ない。だったら動かなくして、『シナ』せばいい。
 あの時、我ながら名案だと思った。得体の知れない興奮を覚えて勢い良く立ち上がった。
 “ソレ”が急に小さくなって――“ソレ”を自分の足が隠して――“ソレ”の上に――

 今でもよく覚えている。
 靴の裏に残った、あの時の感触を。
 “アレ”がよちよちと歩いていた光景を。
 まるで赤ん坊のように。まるでゼンマイ仕掛けのおもちゃように。
 まるで――何かから逃げ出すように。

 足の下にあった“ソレ”は動かなくなっていた。
 あれだけしぶとくよちよちしていた“ソレ”は、全く動かなくなっていた。
 そして自分は――

(――あれ?)

 その後、どうしたんだろう。
 この事ははっきりと覚えているはずなのに。凄く印象深い出来事だったはずなのに。
 あの後……自分は確か……。

(ああ、そうそう)

 思い出した。
 大急ぎで家に帰ったんだ。凄く昂奮して、どこをどう走ったかも覚えて無くて。家の中に転がり込んで、母親に抱きついて、大声で報告したんだ。
 何て言ったかまでは覚えてないけど、『シナ』した! 『シナ』した! って。
 母親は最初何の事かよく分かっていなかったみたいだけど、何回も何回も説明するとようやく理解してくれたようで、例の曖昧な笑みを浮かべて自分の頭を撫でた。
 そう、撫でてくれたんだ。自分のした事を認めてくれた。

 あの時――自分の中で確実に何かが変わった。 

 今まではただ漠然と存在していた何かが、突然鮮明な輪郭を帯びて確たる形を手に入れたんだ。
 コレが『死ぬ』という事。
 そしてコレが『殺す』という事。
 その事を頭ではなく、感覚が勝手に受け入れた。
 それから色んな生き物の死に際に立ち会ってきた。
 アリだったり、バッタだったり、カブトムシだったり。ネズミだったり、ネコだったり、イヌだったり。
 そのたびに“最初の感触”を思い出し、そして奇妙な苛立ちが積もっていった。まるで初めから負けると分かっている戦いに延々と挑んでいくような。そんな不快な気分を味わされ続けた。
 苛立ちが鬱憤に変わり、鬱憤が焦燥へと昇華した時、体の中で何かが弾けた。いや、自分の中で何かが生まれた。
 ――龍閃を殺せ。
 ソレは頭の中に直接話し掛けてきて、抗い難い使命感を植え込んだ。
 ソイツの名前は『玄武』。千年以上も昔から受け継がれてきた十二神将の一人。自分にとって一生涯のパートナー。
 そして、人生の転機をもたらした存在。
 それから何の疑問も抱く事なく土御門財閥の館に向かい、そこで冬摩と出会った。 
 龍閃の息子であり、龍閃に復讐するためだけに生きてきた混血魔人。『痛み』を力の発生点に持ち、力の作用点である『右腕』から絶大な力を振るう。
 極めて好戦的で短絡的。気に入らない物は壊すか殺すかして消し去る。
 『玄武』からの記憶の逆流で、彼が何者なのかという事は知っていた。
 だが、実際にその戦いぶりを目の当たりにした時は衝撃的だった。
 何も迷う事なく、一切の躊躇いもなく、鬼神の如き力で全てを葬っていく姿はまさに圧巻だった。ソコには余計な理屈も、下らない倫理も無い。あるのは勝者の生、そして敗者の死。
 分かり易く、単純で絶対的な図式。
 戦いの後、冬摩は昂奮する事も落ち込む事もなく、ただ面倒臭そうに鼻を鳴らして館に戻るだけ。まるで、無理矢理押し付けられたお遣いを終えた後のように。ソレは極々日常で、普通の出来事。
 信じられないくらいの清々しさだった。
 自分が今まで溜め込んできた、訳の分からない苛立ちや鬱憤、そして不満が一気に解消された。

 ――こうすれば良いんだ。

 本能的な何かが告げた。
 こうすれば嫌な気分にならずにすむんだ。こうすればスッキリするんだ。こうすれば気持ち良くなれるんだ。こうすればこの世界で楽しくやっていけるんだ。
 自分の考えてきた事は間違いではなかった。あの時に……母親に頭を撫でて貰ったあの時に、自分が思った事は決して間違いではなかった。
 やはりそうなんだ。『死』とはこういう物なんだ。『殺す』というのはこういう事なんだ。
 何だ、分かってしまえば簡単な事ではないか。気の持ち方一つで、人生は灰色にもバラ色にもなるとは良く言ったものだ。
 そう、ソレでいい。自分は正しい。そして、その事を教えてくれた冬摩はもっと正しい。
 彼の後ろを付いて行けば間違いない。彼のやっている事を真似ていれば間違いないんだ。
 何も悩む必要など無い。これからは冬摩の戦い方、考え方をどんどん取り入れていけば最高にハッピーになれる。
 完全に吹っ切れた。そして見つけた。
 自分の居場所を。
 ココが。退魔師の世界が。死と殺戮で満ちた日常が。そして圧倒的な破壊の力を持った冬摩の近くが。
 自分の居るべき場所なんだ。
 それが分かってからは、文字通りずっと冬摩の後ろを付いて歩いた。
 色んな妖魔を屠った。沢山の邪霊を消し去った。
 そして――何人もの人間を殺した。
 初めて人を殺したのは九歳の冬。『玄武』に目覚めて半年程が経った頃だった。吹っ切った事を自分自身に証明するため、一人で行く事を希望した。相手は漁師。海で憑かれたらしかった。
 多分、他にも方法はあったんだと思う。久里子に聞けばあっさりその答えが返ってきたかも知れない。
 ――メンドくせー。ブッ殺すぞ。
 だが、そうしなかった。冬摩の言葉がすぐに頭の中で再現された。 
 こういう時、冬摩ならきっとこうする。
 今までずっとそうして来たように、冬摩の行動、思考を頭に思い描いて決断した。
 暴れる男の心臓に爪を立て、体の内側から干上がらせた。
 動かなくなった男を見下ろし、またあの時の事を思い出した。
 セミを殺した時もこうやって、何も言わずに黙って見つめていた。そしてあの時は何かに弾かれたように走り出した。
 だが、この時は違った。
 何の感慨も湧かず、何の感情の変化も無く。かといって放心する訳でも、自失した訳でもなく。ミイラと化した男の死体に、汚いゴミでも見るかのような視線を向けて――
 こんなモンか……。
 ソレが感想だった。
 もっと激しく抵抗して欲しかった。死にもの狂いで向かってきて欲しかった。生きたいと泣き叫んで欲しかった。
 つまらない。自分のした事が正しいとか間違っているとか言う以前につまらない。こんな戦いでは満足できない。こんな中途半端な戦いでは――
 妖魔でも邪霊でも、人間でも魔人でも何でもいい。今の自分を満足させてくれて、納得のいく戦いを。気持ちのいい殺し合いを――
 ソレを唯一実感させてくれたのは――龍閃だった。
 退魔師として最終目標。千年間も追い続けて来た自分達の存在意義。
 龍閃との戦いだけが、カラカラだった自分の喉を潤してくれた。龍閃だけが心を満たしてくれた。龍閃だけが自分を――

(あれ……?)

 何だったっけ。
 龍閃と戦っている時に思ったんだ。龍閃だけが、自分を……。

(まぁいいや……)

 忘れてしまった。またあの最高にハッピーな気分になれば思い出すかも知れない。
 とにかく絶大な力の持ち主だった。あの時の自分では話にならなかった。
 だが、冬摩の力は更にその上を行った。実際に見た訳ではないが、戻って来た冬摩は全くの無傷だった。
 凄いと思った。本当に尊敬した。自分がこの先、一生掛けてでも追い付くべき目標だと確信した。
 しかし――

『麻緒、アンタは今からでも十分やり直せる。今日限りで退魔師からは足洗うんや』

 久里子からの突然の宣告。最初、言われた事が全く理解できなかった。
 まだまだこれからだと思っていたのに。せっかく居心地の良い場所を見つけたと思っていたのに。なのに……。

『ほんならな、麻緒。ちゃんと親孝行するんやで』

 その後、半ば強引に説得され、自分が日常に戻るための手続きは全て整えられていて。不満と苛立ちと焦りが溜まっていって、冬摩は変わってしまって、自分は夏那美と出会って。彼女がたまに持ってきてくれる『遊び』はソコソコ楽しい物で、まぁ取り合えずコレで満足しておくかなとか、自分を誤魔化し続けて、日常も悪くないなと思ってみたり。
 このまま時間が過ぎていって、退魔師としてやっていた頃の事がいつか懐かしい思い出になるんだろうなとか、『ボクも落ち着いたよ』なんてダサい台詞を口にする日は来るんだろうかとか、その頃には自分にも護るべき存在が出来ているだろうかとか、その時にまだ久里子が結婚していなかったらからかいに行ってやろうとか。
 そんな馬鹿な事を色々と考えながら中学校に入学した。
 何か違うという感じは漠然とあったものの、別に無視できない程ではなく。まぁこのまま消えていくんだろうなと思っていた。
 だが――

『ふん、さすがは天才児様。不意打ちでもこの程度じゃピンピンしてるって訳か』

 お迎えが現れた。
 自分を非日常に連れ戻してくれるお迎えが。
 陣迂の拳を顔面に受け、薄れ行く意識の中。耳の奥でしきりに喚き立てられる大声。
 ――コレだ!
 ある種の確信。
 ――コレだ!
 本能からの渇望。
 自分の中で定着しつつあったベクトルが、また百八十度方向を変えた。
 より強く、より深く、より決定的に。
 もはや不動の指針となり、心の底で完全に根を張った。
 やはりココしかない。自分の居場所はココにしかない。ココこそが自分の居るべき世界なんだ。
 日常では到底得られない、快楽、充足、そして痛みと悦び。
 邪魔な物はブッ壊す。気に入らない奴はブッ殺す。
 単純で明快な思考。短絡的で刹那的な行動。
 コレが本来、自分のあるべき姿なんだ。
 陣迂に殴られて目が覚めた。冬摩と戦って気が付いた。魎と戦って自信を取り戻した。玲寺と戦ってさらに求めた。

『麻緒、アンタの力、当てにしてんで。特に水鏡魎との戦い、ウチは正直アンタだけが頼りや思ーとる』

 ――ボクは強い。
 自分を日常に戻そうとした久里子が頼って来たという事実が、その気持ちに拍車を掛けた。
 認められたんだ。
 昔、母親がしてくれたように、久里子も自分の頭を撫でてくれたんだ。ソレでいいと微笑みかけてくれた。
 体内の水分を出し入れする術(すべ)を覚え、二組目の『次元葬』を生み出し、原子崩壊による超爆発まで出来るようになり、そして――

――女にも手加減無しで力を振るえるようになり。

 ――ボクは強い。
 肉体的にも精神的にも急激に成長を遂げていく自分が嬉しくて、愉しくて、誇らしくて。誰にも負ける気などしなくて。だからこの有り余る力をぶつける相手が欲しくて。
 もっと戦って、もっともっと強くなって、もっともっともっと気持ち良くなりたくて、そして――

『テメーの拳は軽いんだよ』

 勝てなかった。どう逆立ちしても勝てる気がしなかった。
 高くなっていた鼻っ柱を見事に叩き折られた。
 あんなボロボロの右腕に自分の拳は易々と受け止められ、その腕で致命的な傷を負わされた。力の差をこれでもかと見せつけられた。例え自分の左腕が無事だったとしても、アレでは……。
 龍閃の時と同じだった。龍閃の時と同じくらい、雲泥の差だった。
 だから思った。
 陣迂なら、きっと自分を――
「……っ」
 知らない天井が視界に映った。
 汚れ一つない純白の平面。煌びやかな光を撒く凝った意匠のシャンデリア。
「えーっと……」
 麻緒は独り言のように呟きながら、上体を起こして辺りを見回した。
 自分が今居るのはダブルサイズのベッドの上。クッションは上質で、体は沈み込みすぎる事なく、まるで浮かんでいるかのよう。壁紙は暖色を基調とした、温かみのある佇まい。部屋の広さは八畳を程。
 一人部屋にしては十分すぎる広さだ。窓はドアのように大きく、そこから燦々と陽光が差し込んでいる。
 そして鼻腔を突くのは、新築独特の化学的な匂い。
 ソレは麻緒の大嫌いな――
(ああ……)
 思い出した。
 この匂い。この光景。この感触。
 ココは客間だ。土御門財閥の館に何十とある、来客用の部屋の一つ。
(――って、オイ)
 頭が勝手にその事を理解した途端、ぼんやりとしていた麻緒の意識が急に明確なモノになり始める。
 自分は確か陣迂と戦って、負けて、その後アイツに――

『俺は自分の為に無関係の女を利用するような下衆野郎なんでね。坊主が嫌がるような事なら喜んでやるぜ』

「あのガキ!」
 布団をはねのけて麻緒はベッドから飛び出た。
 最悪だ。本当に最悪で最低なマネをしてくれる。コレなら死んだ方が数兆倍ましだ。
 自分の醜態をわざわざ晒すなど。それも自分の事を一番良く知っている相手に対して。
 久里子や冬摩、玖音。それに下手をすれば――
「麻緒、君……」
 横手から恐る恐る掛けられた声に、麻緒は大きく溜息をついた。
(ホント超サイテー……)
 そしてげんなりとした様子で半眼をソチラに向ける。
 部屋の隅に立っていたのは男物の服に身を包んだおさげの女の子。自分と同じくらいの年齢の……。
「ダッサダサだよ、カッコワル〜……」
 麻緒は力無くベッドに座り直し、そのまま脱力して大きく項垂れた。
 まさか夏那美に見られてしまうとは。コレで二度目だ。同じ相手に二度も負けた姿を見られてしまった……。
 一度目はまだ不意打ちだったから言い訳は立ったが今回は……。しかも自分はあの時、彼女を……。
「で? 何か用?」
 麻緒は不機嫌そうに言いながら顔を上げ、夏那美に睨み付けるような視線を送った。
「え、と……あの……元気になって……良かったね……」
 コチラが放つ剣呑な雰囲気に射すくめられたのか、夏那美は張り付いた笑みを浮かべてぎこちなく返す。そして胸の前に持ってきたおさげを指先でいじりながら、盗み見るような視線を向けてきた。
(あー、イライラする……)
 夏那美の反応に麻緒は後ろ頭を乱暴に掻き、ベッドから腰を上げる。
「何なのさ。言いたい事あるならハッキリ言いなよ。いつもみたいにズケズケと遠慮なく」
 そして苛立ちも露わに攻撃的な口調で言った。だが夏那美は何も言わない。ただ黙って俯いたまま、何かに耐えるように下唇を噛み締めている。
「何なんだよホントさー。あるんだろー? ヨッキュー不満がてんこ盛りでー。弱っちいクセに態度だけデカいとか、無様にやられてよくまぁヌケヌケととか、せっかくガッコーで助けてあげたのにそのお礼はまだかとさかー。負け犬のボクにはお似合いだからガンガン突っかかってきなよ。いつもみたいに、『ムッキー! 何よその言い方!』って感じにさー」
「そ……そんなつもり、無いよ……。ホント、麻緒君が元気になってくれて、あたし、本当に……」
 爪先で絨毯をトントンと打ちながら、ぼそぼそと小声で呟く夏那美。
 マジにイライラする。心にも無い事言いやがって。本当は思いきり悪口吐き散らしたいクセに。罵り倒したいクセに。
 それとも何か? 真綿でジワジワ絞殺殺法ってヤツですか? 後々までネチネチネチネチネチネチと。
 ゴメンだ。そんなのまっぴらゴメンだ。言いたい事は分かり易く今ココでハッキリと。腹の奥から全部吐き出して下さいよ。
「東宮さんさぁ……いい加減にしてくれないかなぁ。思った事言いなよ。別に怒んないからさー。てゆーか、そーやってウワベの気遣いされてる方が超居心地悪いんだけど」
「で、でも……あたし、ホントに麻緒君がまた起きてくれて……」
「言えっつってんだろ!」
 無意識に放った左拳を壁に深々と埋め込み、麻緒は目を剥いて激昂した。
「そーやってグチグチグチグチされんのが一番腹立つんだよ! ムカツイてんだろ!? ブッ殺してーんだろ!? ああそりゃそうだよ! 当然だ! 自分の顔面ブン殴ったんだからな! まともに食らってりゃ今頃とっくにあの世行きだ! ブタそっくりの汚いツラで閻魔様とご対面って訳だ! ッハ! 分かったかよ! そのチンケな脳ミソで理解したか! テメーは一回俺に殺されてんだよ! ムカツカねー訳ねーだろーが!」
 そして早口で一気にまくし立て、麻緒は息を荒くしながら夏那美に凄絶な視線を向ける。
「……ぅ、モン……」
 夏那美は掠れた声で言いながら後ずさり、
「あァ!?」
「違う、モン……」
 麻緒から逃げるように壁伝いに移動して、
「何が違うってんだよ!」
「あたし……麻緒君の事……」
「だからハッキリ言えよ!」
「あたし……!」
 顔色を蒼白にして、夏那美は部屋から飛び出した。
「待てコラァ!」
 怒声を上げ、麻緒は夏那美の後を追おうとして、
「――ッ!」
 視界が暗転する。
「よぉ麻緒。随分と元気そうじゃねーか。たった一晩で大した回復だ。安心したよ。左腕も問題なさそうだ」
 そして頭上から良く知った低い声が降って来た。
「つまり、遠慮はいらねー訳だ」
 その言葉が終わる直前、左頬が灼熱を帯びる。声を上げる暇も無く、麻緒は突然の破壊力に跳ね飛ばされ、背中から壁に叩き付けられた。
「くっ……」
 口の中に広がる鉄錆の味を噛み締め、麻緒は震える両脚で体を支えて、
「な、何すんだよ……お兄ちゃん……」
 憮然とした態度でコチラを見下ろす冬摩に言う。黒のタンクトップと同色のジーンズに包んだ身からは、威圧的な殺気が視認できる程にハッキリと立ち上っていた。
「テメーが気に入らなかった。そんだけだ」
「そんだけって……」
 ソレだけの理由で、瀕死の重傷からようやく回復した自分を……。
「へ、へへ……」
 いや、そうだ。ソレで良いんだ。ソレでこそ今まで自分が尊敬し続けてきた荒神冬摩だ。だからコレで良いんだ。自分は冬摩に殴られて当然の事を……。
 麻緒は薄ら笑いを浮かべながら、両脚から力を抜いた。そして絨毯の上に座り込む。
「陣迂の野郎にボコボコにされたんだ。しかも頼んでもねー情けまで掛けられてよ。だからテメーがイライラすんのは分かる。けどよ、イライラしてんのはテメーだけじゃねーんだよ。ちったぁ頭冷やせ、ボケ」
「は、ハハハ……。まさか、お兄ちゃんの口からそんな言葉が聞けるとはね、ビックリし過ぎてもー十分アタマ冷え冷えになっちゃったよ……」
 軽い調子で言いながら麻緒は体を起こし、殴られた頬を左手でさすりながら冬摩を見た。
 確かに左腕は完全に元に戻っている。手の皺から爪の形まで完璧に。原子崩壊に使った左足の小指もだ。寝ている間に冬摩が『復元』を施してくれたんだろう。
「ケッ、『死神』と同じよーな事言いやがって。そんじゃ行くぞ」
「行くって……ドコに?」
 一方的に言って背を向けた冬摩に、麻緒は高い声で聞き返す。
「決まってんだろ。魎の野郎を探しにだよ」
「どーやって?」
「だからテメーの『玄武』と俺の『白虎』でだよ」
「どーやって?」
「共鳴すんだろ!」
「何と?」
「『朱雀』に決まってんだろーが!」
 冬摩は勢いよく振り向き、唾を飛ばしながら叫び上げた。
 麻緒はソレを寝間着の袖で拭きながら視線を上げ、少し考えて、
「あぁー、真田玖音って人が魎のオッサンと一緒に居るのね」
「ぬわあぁぁぁぁぁぁにいいいいぃぃぃぃぃぃぃ!」
 遠くの方から地響きのような足音と、惨劇を連想させる叫声が猛烈な勢いで近付いて来る。
「兄貴と! あのクソ詐欺師がああああああぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 そして通り過ぎた。
 と、思ったら長い紅髪の女性が、冬摩の後ろから顔を出す。
 確か、玖音の妹の……。
「行くぞ! さぁ行くぞ! 今すぐ行くぞ! とっとと行くぞ! 急げよオラァ!」
 美柚梨は大きな目を更に大きく見開き、冬摩の首を後ろから締め上げながら叫び散らした。
「で、め゛ぇ……。なに゛、やっでんだ……」
 ギギギ、と首を軋ませて後ろを向く冬摩。
「ミーちゃんまで冬摩化してもーた……。なんちゅー嘆かわしい……。玖音がコレ見たら何て……」
 そして美柚梨の後ろから久里子の声がする。
 どうやら感情にまかせて壁を突き破ったのは大失敗だったようだ。
「取り合えず、大広間行こか……。まぁコレで玖音以外は全員揃ーたし、な」
 疲れた声で言いながら、久里子は猫背をコチラに向けて歩き出した。

 三年ぶりに見た大広間は以前よりも少し狭くなったように感じた。昔はもっと冗談じみた大きさの空間だった気がする。ソレこそ意識が遠くなりそうな程の。自分が成長したからそう思うのだろうか。
(まぁいいや……)
 長い前髪を左右に払いのけ、麻緒はやる気無さそうに近くの椅子に腰掛けた。そして片肘を付き、この場に居る面々を見回す。
 腕組みし、今にも爆発寸前といった様子の冬摩。その正面で同じく殺気立ちながら、テーブルクロスに爪を立てている美柚梨。顔を押しつけるようにして床を凝視し、何かを観察している『羅刹』。俯き、今にも泣き出しそうな表情の夏那美。そしてその両隣りに陣取り、心配そうに見つめている朋華と御代……と、後ろに『獄閻』。
(何なんだよ……)
 溜息をつき、麻緒は三人と一匹の塊から視線を逸らした。
 あの二人が夏那美に何を言って慰めているのかは知らないが、少なくとも自分にとって気持ちの良い物でない事は確かだ。どうせ悪いのは全部コッチで、夏那美は全くもって正しいとでも言い合っているんだろう。女同士がやりそうな事だ
(ま、別に良いけどさ)
 自分には関係のない事だ。どうせもう夏那美と話す事も無いだろうし、コレが終わればあの二人と会う事はまずない。
 ソコで一旦リセットだ。学校なんかとっとと辞めて、家族とはすっぱり縁を切って、しがらみを全て断ち切って一人で勝手気ままにやらせて貰うさ。他人との繋がりなんかクソ食らえだ。
「まー、何や。もぅ限界ゆー奴が約二名ほどおるから手短に言わせて貰うわ」
 自分のすぐ隣りに座った久里子が、少し投げやりな口調で言った。麻緒はソチラに顔を向け、久里子の言葉に集中する。
 とにかくややこしい事はまっぴらだ。単純で簡単なのがいい。
「今度はコッチから打って出る。紅月が来る前に、水鏡魎を何とかする」
 そう。例えばこういうのだ。
 強い奴が生き残って弱い奴が死ぬ。赤ん坊でも理解できる極めてシンプルなルール。今はとにかく頭で何か考えるより体を動かしたい。このムシャクシャした気分を吹き飛ばしたい。
「麻緒。アンタにはまだゆーてへんけど、水鏡魎の目的は冬摩を精神的に追い込む事や。そのためにウチらにちょっかい出してきた。多分、冬摩の左腕の事調べるのに何か関係あるんやと思う。『死神』だけを奪い取りたいゆー事も、龍閃の死肉の件も最終的にはソコに行っとるはずや」
「あっそ」
 久里子の説明に適当に返し、麻緒は目を瞑って組んだ両腕を頭の後ろに回す。
 そんな事はどうだっていい。今、自分にとって重要なのは、思い切り暴れさせてくれる相手がどこに居るかという事だ。ソコでもっと力を付けて、今度こそあの陣迂のクソ野郎を……。
「ほんで、やな。ホンマはミーちゃんには黙っとこう思ーててんけど、水鏡魎のそばには玖音がおる。せやから……」
「何でアタシに黙ってたんだよ! そんな大事な事!」
 久里子の言葉を遮り、美柚梨が叫んだ。
 あー、うるさい。話が前に進まないじゃないか。
「いや、ウチもな、別に誰かから聞いた訳やないねん。まぁ冬摩が陣迂と戦こーたゆー事は、玖音の相手は水鏡魎やろう、と。麻緒と玲寺さんが戦うんは殆ど確実やったからな。で、その水鏡魎が冬摩の前に出てきた。けど玖音からは音沙汰無し。ほしたらまぁ、多分……な? せやから確証があった訳やなくて……」
「それでも言って! 確証が無くても言って! 兄貴の事は全部教えて!」
「わ、分かった分かった。今度からは絶対そうするから、な?」
「じゃあ今知ってる事、考えてる事、妄想してる事ひっくるめて言って!」
「い、いやせやからぁ……もうそんな隠し事は……」
「言って!」
 テーブルをババン! ドバババンッ! と激しく叩きながら、美柚梨は昂奮に顔を染めてまくし立てる。
「で、どーやって探すのさ。さっき共鳴って言ってたけど、当ても無しじゃ無理だよ」
 そこに強引に割り込み、麻緒は話の筋を元に戻した。
 いつまでもこんな下らない茶番に付き合ってなんかいられない。
「そうっ。ソレがな、実は当てはあんねんっ」
 久里子は渡りに船といった様子で、自分の言葉の後に喜々と続く。
「水鏡魎の目的は冬摩を追い込む事。で、アイツはソレを確認するために冬摩のそばにおるはずなんや。ちゃんと苦しんどるかどうか、絶対どっかで見とるはずなんや」
「ふぅん、で?」
 こめかみに太い血管を浮かび上がらせ、全身を小刻みに痙攣させている冬摩を横目に見ながら麻緒は説明を促した。
「水鏡魎は冬摩と常に一定の距離をとっとるはずや。多分、玖音と一緒にな。せやから冬摩が点、アンタはその点を中心とした円の動きで探して行けば、いつか水鏡魎にたどり着くはずなんや。ゆーてみたら冬摩は囮、実際に見つけんのは麻緒の方や」
「何その超地味な作業。もっと他にパーッと見つけられる方法とかないの?」
「せやったオドレが何かええ知恵出せや」
 コチラの頭を両手でワシィ! と掴み、眉をハの字に曲げて久里子は顔を近付ける。
 ……どうやらイライラしているのはみんな同じのようだ。
「あの、でも……ソレだったら麻緒君と水鏡魎って人が、ずっと追い掛けゴッコする事になりませんか?」
 左正面から飛んできた朋華の鋭い意見に、久里子は『あァん?』とガンを飛ばしながら顔を向けた。
 ……冬摩の影響か何か知らないが、この仁科朋華という女性も随分とハッキリ物を言うようになったモンだ。
「ま、まぁ勿論やってみなきゃ分かんないですけどねっ。はははー」
「……ソレは、大丈夫や。多分、挟み撃ちの形になるやろーからな」
 おっ立てた中指で眼鏡の位置を直しながら、久里子は虚空を睨み付けて言った。
「挟み撃ち?」
「ウチら以外に水鏡魎を探しとる奴がおるやろ」
「陣迂、さん……ですか?」
「もう一人」
「もう、一人……?」
 言われて朋華は視線を上げ、顎先に指を沿えながら何かを思い出すように――
「玲寺さんや」
 久里子が短く言った。
「話聞いた限り玲寺さんはもう吹っ切れたはずや。麻緒と戦った事でな。元々、水鏡魎と一緒におったんは自分の居場所が見つからんかったから、みたいな感じやったしな。せやから今はもう、水鏡魎から離れとるはず。ほんで自分の考えで行動しとるはずや」
 自分の居場所、ね……。
 久里子の言葉を頭の中で反芻し、麻緒は溜息をついて目を細める。
 なるほど。言われてみれば確かに、そんな風に見えなくもなかった。あのやる気のない戦い方。殺気を微塵も感じない雰囲気。ぬるくて、受け身で、ただひたすら成り行き任せで……。
 そう。アレは日常と言う名の毒にどっぷり浸っていた頃の自分にそっくりだった。
 ソレが自分との戦いをきっかけにして変わった? 以前のように、表面上は冷静に見せつつも、内面はギラギラしていた頃の玲寺に戻った?
(ふん……)
 馬鹿馬鹿しい。あの下らない戦いで何を得たというんだ。自分は欲求不満と苛立ちしか残らなかった。だから早く次の戦いを求めた。しかし、最悪で最低の状況に追い込まれた。
 もう勝つしかない。勝つ事でしか自分の存在意義を見出せない。自分は強いのだという事を何とかして言い聞かせないと、頭がどうにかなってしまいそうだ。
 だがもしあの時、陣迂が自分を――
「どーだかなー。アイツは立派な裏切り者だからなー」
 半眼になり、冬摩は久里子に向かって揶揄するように言った。
「吹っ切れたんや! 絶対にな! 玲寺さんはもう昔の玲寺さんや!」 
「昔の玲寺っつったら、やっぱ裏切――」
「ちゃうゆーとるやろ!」
 挑発的な冬摩の言葉に、久里子は歯を剥いて激昂する。
 どうやらこの辺りはまだまだ久里子の希望的観測の域を出ないようだ。美柚梨の言葉を借りるのであれば妄想というヤツか。
「まー、とにかくだ。ココでジッとしてても始まらねぇ。地味でも何でも、魎の野郎を探せんならソレやるしかねぇだろ」
 言いながら冬摩は席を立ち、両手の骨をバキボキと鳴らしてポケットに突っ込む。
 まぁ確かにそうかもしれないが……ソレでも水鏡魎に出会えぬまま何日も過ぎていくのは相当なストレスだ。大体――
「真田のにーちゃんと魎のおっさんが一緒に居るって保証はどこにあんのさ」
 そこからして定かではない。
 水鏡魎が自分の居場所を知らせる目印のような物をいつまでも持ち歩いてるとは思えない。共鳴で分かるのはあくまでも『朱雀』の位置だ。
 ソレが魎の居場所に直結するとは限らない。むしろコチラがそうやって探そうとするのを逆手にとって、罠を仕掛けるのが普通だ。
「二人がバラバラに居たら意味無いじゃん」
「無くない! 兄貴を見つけるのが最重要! 他はどーでもいいの!」
 そりゃアンタはね……。
 椅子から飛び上がり、冬摩の首を腕で締め付けながら叫ぶ美柚梨に麻緒は冷めた視線を向ける。
「……まぁ、ソコは大丈夫やろ。『朱雀』が……水鏡魎のおる場所を教えてくれる」
「どうしてさ」
「……どうしてもだよ」
 体に歯を立てようとする美柚梨を引き剥がしながら、冬摩は重苦しい口調で言った。
(……んん?)
 麻緒は納得のいかない顔付きで久里子と冬摩を見返し、
(あぁ……)
 ようやく思い当たった。
 そうか。そういう事か。
 もし一緒でなかったとすれば、多分玖音は殺されている。陣迂とも玲寺とも行動を別にしてしまった以上、信頼できる見張りは居ない。久里子の事で一回失敗しているから、不用意に目を離すとは思えない。
 だから殺す。そして魎が『朱雀』を保持する事になる。
(じゃあもう死んでるな)
 後ろ髪をうなじの辺りに撫で付け、麻緒は背もたれに体重を預けた。
 多分、自分だけではなく冬摩も久里子もそちらの可能性が高いと考えている。しかし美柚梨の事を気遣って口にはしない。ソレが歯切れの悪い喋り方の理由だ。
 もしかすると美柚梨本人もそう考えていて、でもソレを振り払うためにああやって感情的になっているのかも知れない。
「分かった。それじゃ行こうよ。ジミーな作業をしにさ」
 皮肉たっぷりに言いながら麻緒も席を立ち、組んだ両手を頭の後ろに回して胸を張る。
「ほんならウチは麻緒と一緒や。『千里眼』で冬摩のおるトコ常に把握しとかなあかんからな」
「えー……」
「いっ・しょ・や」
 不満そうに声を出す麻緒に、久里子はヘッドバットでもするかのように額と額を合わせて強く言った。
 ……自分は何か気に入らない事でもしたのだろうか。
「トモちゃんはまぁ冬摩と一緒やろ」
「当たり前だ」
「ほんでミーちゃんは……」
「兄貴の見つかる方!」
「……ソレはどっちか分からんけど……まぁ確率としてはウチらの方か。で、カナちゃんは……」
 言葉をソコで切り、久里子は夏那美に目をやる。
 夏那美は躊躇いがちにコチラを見た後、隣りに居る朋華のロングパーカーをぎゅっと掴んで俯いた。
(何だよ)
 その反応に麻緒は小さく舌打ちし、不機嫌そうにそっぽを向く。
「冬摩の方やな。ウチもソレがええ思う」
 浅く頷きながら、久里子は何か含みを持たせて言った。まるで自分に当てつけているようで気分が悪い。
「えーっと、御代ンも冬摩と一緒の方がええな。コッチよりかは安全やろーし」
「私は……」
 言われて御代は視線を下げ、フレアスカートの上で両手を固く握り込んで、
「私は陣迂って人に会ってみたい」
 強い意志を帯びた目で久里子を見る。顔を上げた拍子に、ツインテールに纏めた髪が大きく揺れた。
「まぁ、昨日もゆーとったなぁ。この変な気分を何とかしたいって」
 変な気分?
「せやけど陣迂の場所なんか……」
「分かるわ。何となくだけど」
「ホンマに?」
 即答した御代に久里子は目を大きくして返した。
 ああそうか。確か彼女は陣迂の召鬼。だから陣迂の気持ちが伝わって来ているのだろう。そして魔人と召鬼の繋がりで陣迂の居場所も分かる、と。
「昨日、あの人が出ていった後くらいからぼんやりと分かり始めて……まぁホント、何となくなんだけど」
 チュニックブラウスの上から胸元に手を当て、御代は少し苦しそうに顔を歪める。
「っへぇー、大したモンや。ウチなんかいまだに冬摩の場所感じられへんのに」
「それだけテメーの心が枯れてるってこった」
「ドタマ枯れとる奴は黙っとき」
 横から挟まれた冬摩の言葉に、久里子は低い声で返した。
「ほしたら御代ンはウチらと一緒やな。陣迂の場所も把握できるんやったら追いつめ易い。こらええ感じや。完全に追い風やで」
 久里子はウェイブがかった長い髪を掻き上げ、得意げに鼻を鳴らす。
 ……また一人お荷物が。
「『獄閻』と『羅刹』は別にどっちでもええけど……って、『獄閻』は冬摩の方かい」
 夏那美の方に寄って行く『獄閻』を見ながら、久里子は驚いたような呆れたような表情で零した。
 ……使えない使役神のくせにナイト気取りか。馬鹿馬鹿しい。まさかこんな奴にまで当てつけられるとはね。
「ほんなら『羅刹』はコッチ、と」
 床の上でうずくまるようにしている『羅刹』の首根っこを掴み上げ、久里子は腰に手を当てた。
「なんならもっと付けてやろうか?」
「いや、このくらいでええわ。あんま多いと動きにくいからな」
 片眉を上げながら言った冬摩に、久里子は肩をすくめて返し、
(あれ……?)
「そういえば『死神』は?」
 いつも表に出ている高飛車な女の事を思い出して麻緒は聞いた。
「アイツは中だよ。さっきからギャーギャー煩くてしょうがねぇ」
「『死神』はもう囮にはならん。水鏡魎の狙いが『死神』やーゆーに事ウチらが気付いとる事はバレとる。陣迂と玲寺さんのどっちかがチクるやろーて考えるんが普通やからな。せやから露骨に隠す。『閻縛封呪環』からな」
「ふぅん……」
 久里子の説明に麻緒は興味なさそうに返す。
 そういう事なら自分には関係ない。てっきり水鏡魎の野望とやらがもう叶ってくれたのかと思ったのだが。そして陣迂なんかよりずっと強くなって……。
(そうだ……)
 そこまで考えて麻緒は思い当たる。
 水鏡魎とは街の中で一度戦ったが、チョロチョロするだけで大した力は持っていなかった。確実に陣迂より弱かった。だから今回上手く見つけ出せたとしても、きっと満足の行く戦いにはならない。自分は強いのだという事を再認確認出来ない。
 だったら――強くしてやればいい。もし水鏡魎が本気を出しても弱いままだったら、相手の野望に荷担してやればいい。ソレでも駄目なら、龍閃を黄泉還らせて……。

◆策士と術士 ―陣迂―◆
(クソ……)
 完全に感覚の無くなった右腕を見ながら、陣迂は顔をしかめた。
 薄暗い森の中、足を止めて息を吐く。そして左手で右腕に触れ、陣迂は目を閉じた。
 コレしかなかった。あの戦いを終わらせるにはコレしかなかった。
 自分との力の差があまりにあり過ぎるのだと思い込ませる方法でしか、九重麻緒という少年を止められなかった。
 そうしなけば本当に殺す事になっていただろう。手加減など到底出来ない。
 それ程、彼は強かった。
 しかも戦いながら更に強くなっていた。おまけに気持ちを際限なく昂揚させる事で、痛みを感じない術まで心得ていた。
 まだ十年そこそこしか生きていないはずなのに、恐ろしいまでの才能だ。

『いや、卒業じゃないね。超えたんだ。ボクはその点に関しては、お兄ちゃんより強くなった』

 だが、気に入らない野郎だった。
 自分を庇った女に拳を向けるなど……。ソレを強さというなど……。
 あの言葉を聞いた時、本気で殺してやろうかと思った。こんな下衆をのさばらしておく訳にはいかないと思った。
 しかし、麻緒を殺せばあの夏那美という少女は間違いなく悲しむ。事実、土御門財閥の館に麻緒を返しに行った時の夏那美の乱れようは、痛々しくて見てられなかった。顔を殴られそうになったというのに、まだ麻緒の事を大切に思っていた。
 もし殺していれば、自分は夏那美にとって麻緒の仇だ。
 育ての親とは言え平気で人質を使うような屑野郎に荷担し、自分の束縛を解くために無関係の女を使い、その上……。
 自分はすでに多くの業を背負っている。なのにソコにまた積み重ねるような真似だけはしたくない。
 だから麻緒を殺さないでおいた。例え右腕を犠牲にしてでも。
 ――あの時。水分の殆どを失った自分の右腕は使い物にならなかった。力など全く入らなかった。かといって『呼気』からの『認識乱』を使う事は出来ない。爆風が収まっていなかった事も理由の一つだが、そんな紛い物では麻緒を止められないと思ったからだ。
 もし『認識乱』で誤魔化している事が分かれば、麻緒は更に勢い付いただろう。幻覚でしか反撃できない程、コチラが弱っているのだと考えて。
 確かに自分は追いつめられていた。
 痛みも感じず全く怯まず、どんどん力の増して行く麻緒に少なからず押されていた。冬摩程ではないにしろ、あの小さな体から放たれているとは思えない拳撃に余裕を無くしていた。
 だから右腕を犠牲にせざるを得なかった。
 右腕の筋繊維を連続的に凍結融解させる事で伸長と収縮を起こし、擬似的に筋肉の動きを再現するしかなかった。
 もう振るえないと思い込んでいただろう右腕からの力で圧倒されれば、麻緒はきっと痛みを思い出す。コチラがまだ十分すぎる程の余力を残していると分かれば、麻緒の心は必ず折れる。そして戦いが終結する。
 ソレに関しては思惑通り事が運んだ。だが、失った物は予想より大きかった。
 まさかここまで完全に潰れてしまうとは。全ての細胞が壊死し、自然回復ではどうにもならないくらいに壊れてしまうとは。
(いや……)
 苦笑して陣迂は目を開ける。
 右腕一本くらい何だというのだ。麻緒は最初から左腕が無い状態で自分に向かってきた。そして戦いの中で更に指を犠牲にしようとした。そうまでして麻緒は勝利を掴み取りたかった。
 その点で自分はすでに負けていたのかもしれない。戦いに掛ける想いの強さで、自分は麻緒に劣って――
(違う)
 そうではない。
 アレは想いとか、そういう生易しいモノではない。執念とも違う。
 あの戦い方。我が身を削る事に対して一切の迷いを抱かない狂人的な戦い方。
 過去に一体何があったのかは知らないが、アイツは戦いの中、本気で――
「一人物思いに耽っているところ申し訳ないのですが、少しお邪魔させて頂いてもよろしいですか?」  
 前から掛かった声に、陣迂は思考を中断してソチラに目を向けた。
「やー、なかなか良い物ですねー。森林浴をしながら人探しというのも」
 先が軽くカールした柔らかそうな黒髪。柔和で温厚な顔立ち。身を包んでいるのは皺一つない純白のスーツ。そして地面に付きそうな程に長いオーバーコート。
 篠岡玲寺。三年程前に魎が拾ってきた人間だ。しかし今は龍閃の死肉が完全に着床したせいで、自分と同じく魔人の体を持つ事となった。
「ですが一人では大変でしょう? どうですか。ココは一つ協力するというのは」
「失せろ」
 微笑をたたえながら穏やかな口調で言ってくる玲寺に、陣迂は冷たく返す。
 魎と同じく、何を考えているのかよく分からないコイツは嫌いだ。麻緒と戦った後どうなったのかは知らないが、話す事など何も無い。
「まぁまぁ、そんな事言わずに。自由の心を取り戻した者同士仲良く……」
「失せろ」
 玲寺の言葉が終わらないうちに陣迂はもう一度繰り返す。
「聞く耳無し、ですか。コレはなかなか手厳しいですね……」
 芝居がかった様子で肩を落として見せる玲寺の横を、陣迂は早足で通り過ぎて――
「このままだと冬摩は魎に負けますよ」
 僅かに体を震わせ、歩を止める。
「確実にね」
 そして付け加えるように言った玲寺の方に体を向けた。
「だから?」
「冬摩が居なくなると張り合いが無いでしょう。貴方は冬摩と戦うために千年以上も生き続けてきたのでは? まぁ殺されないまでも“水鏡魎に負けた”という汚点が付く。なんとも嫌な称号じゃないですか。最強の魔人となった冬摩を負かすのは他人ではなく自分の方がいいでしょう?」
 両手を広げ、悩ましげに頭を振りながら玲寺は言う。
「兄者が負けたのならそれまでだったという事だ」
「頭ではそう思っていても心ではなかなか受け入れられない。そういうものです。ずっと目標にしてきた者が転げ落ちるのを見るのは心苦しいですよ?」
「馬鹿馬鹿しい」
 陣迂は吐き捨てるように言って玲寺に背中を向ける。
「このまま当てもなく探し回ったところで、魎を見つけられるとは思えませんが」
「お前と居るよりマシだ」
「私の『青龍』と玖音の『朱雀』を共鳴させられれば意外とアッサリ見つかるかも。久里子達も同じ事を考えているでしょうしね」
「一人でやれ」
 短く言って陣迂は森の奥へと歩き始め、
「やれやれ、しょうがないですね」
「――ッ」
 太腿に熱が走った。反射的に横へと飛び退き、陣迂は体を反転させながら着地する。
「テメェ!」
「私は困るんですよ。冬摩に負けて貰ってはね。魔人となった事で得たこの力を冬摩に試すまでは」
 玲寺の羽織ったオーバーコートから黒鎖が無数に伸び、意思を持ったかのよう立ち上がった。先程までの浮ついた雰囲気は一瞬にして消し飛び、代わって肌を裂くほどに張りつめた空気が神経を尖らせて行く。
「へっ! ちったぁ男らしい顔付きになったじゃねぇか!」
「色々と吹っ切れましてね。自分のしたい事をする事にしたんですよ」
「ソレがコレって訳か!」
 叫んで陣迂は地面を蹴った。そして一気に玲寺との距離を詰める。
「まぁ下準備、と言ったところでしょうか」
 突進の勢いに乗せて突き出した左拳を、玲寺は黒鎖をより合わせた盾で受け止めた。
(クソッ!)
 左腕に力を込めるが押し返せない。いや、力そのものが入らない。右腕が使い物にならなくなったせいで、体全体の感覚がおかしくなっている。
「おやおや、随分とひ弱な事で。麻緒にあれだけ拳が軽いと言っておきながら、貴方自身はこの様ですか」
「フザケンナ!」
 陣迂は大きく叫び、その『呼気』に乗せて『凍刃』を黒鎖に――
「その力の作用点、私の前では無力ですよ?」
 突然正面から強風が吹き付けたかと思うと『呼気』を霧散させ、コチラの顔面の皮膚を切り裂いて後ろへと流れた。
「ちぃ!」
 舌打ちして陣迂は玲寺から一端距離を取る。
 『青龍』の持つ真空気流の力。『呼気』などで太刀打ちできる風圧ではない。このままでは不利だ。圧倒的に。
 どうする。何で立ち向かう。『右腕』は使えない。『呼気』では意味がない。
 なら『影狼』を具現化させて……!
「印は組ませませんよ」
 黒鎖が空気を焦がす勢いで急迫してくる。
 陣迂はソレを左腕ではじき返そうと構えて、
「避けようとしないのは良い事です」
 破裂でもしたかのように黒鎖は眼前で弾け飛んだ。
(フェイント!?)
 横薙ぎに振るった左腕が大きく宙を泳ぐ。そして無防備の胸部が晒され――
「ぐ……!」
 黒鎖を追うようにして間合いを詰めていた玲寺の蹴りが、鳩尾に突き刺さった。だが陣迂は引かない。両脚でしっかりと大地を捕らえて踏ん張り、戻した左手で玲寺の足を掴み上げる。
「大した物ですねぇ。この辺りの我慢強さはさすがと言ったところでしょうか」
「クタバレ!」
 涼しげな顔で言う玲寺の体を高々と掲げ、陣迂は力任せに叩き付けようとして、
「な……」
 突然動きが止まった。
「貴方と本気でやり合うつもりはないんですよ。右腕がそんな状態の貴方に勝ったところで何の価値もありませんしね」
 溜息混じり言いながら玲寺はゆっくりとした動きでコチラの束縛を解き、悠然と地面に降り立つ。
「まぁもう少し時間はあるのかも知れませんが、こう見えて意外にせっかちなタチでして。思いついたらすぐにでもやらないと気が済まないんですよ。冬摩と戦いたいと思った時もそうでした」
 オーバーコートについた埃を手で軽く払い、玲寺はにこやかな笑みを浮かべた。
「何のつもりだテメェ……!」
「ええ。ですから言ってるじゃないですか。私は自分のやりたい事をやると。水鏡魎の言いなりになっていたこの三年間は言ってみれば私の黒歴史でしてね。まずは手始めにソレを消そうかと」
「フザケンナ!」
 大声で怒鳴りつけ、陣迂は体に力を込める。だが動かない。まるで、肉体から意識だけを切り離されたように。
「いえいえ、別にふざけてなどいませんよ。私は大真面目です。もう観客ではなく役者ですからね。ちゃんと責任ある行動をしないと」
 伸びていた黒鎖がオーバーコートに戻り始める。そして自分の体から光る何かが抜け落ちた。
 ソレは僅かに差し込む陽光によって照らし出された、毛髪のように細い糸……。
(そうか……)
 コレか。自分の体を縫い止めた原因は。
「気付きましたか。いやぁなかなか鋭い。あまり種明かしはしたくはなかったのですが」
 フェイントだと思い込んでいた黒鎖の破裂。アレは黒鎖が消えて無くなったのではなく、見えないくらいに細く分裂したのだ。そして自分の体に潜り込んだ。
 玲寺の力の作用点は『声』。その黒い糸を伝わらせれば、体内に直接力を叩き込む事が出来る。その力で運動神経中枢を麻痺させた。
「まぁ、また三半規管を麻痺させようかとも思ったのですが、魔人の回復力は学習済みですし、今回はより確実な方法を取らせて頂きました」
 どこか楽しそうに話す玲寺に、陣迂は舌打ちして睨み付ける。
「そんなに恐い顔をしないで。私は貴方の味方ですよ。取り合えず今のところはね」
「俺はテメーが嫌いだ」
「うーん、冬摩ソックリな顔で言われると、それなりに傷付きますねぇ。まぁソックリなだけで違う事は違いますが。例えば髪質が冬摩より若干ストレート寄りの所とか、身長がコンマ五センチ低い所とか、唇が百ミクロン薄い所とか」
 コチラの顔を舐め回すように見ながら玲寺は艶っぽい仕草で言う。
 ますます嫌いになった。
「麻緒との戦いでキッカケを貰ってから色々と考えましたよ」
 玲寺はオーバーコートのポケットに手を入れ、声のトーンを少し落として続けた。
「冬摩との戦いに負けて他の全てがどうでも良くなった事、断る理由が無いから魎に従っていた事、考える事を放棄してただ言われるままに流されていた事、そしてまた冬摩達と敵対する事になった事。何と言いますか、我ながら実に情けない三年間でしたよ。やっていた事は小学生と何ら変わらない。思い通りにならなかったから、拗ねてふくれていただけです。ソレを人生の終着駅と勘違いしていました。自分にはもうやり残した事は何も無いと思い込んで、悟りでも開いたような気分になっていました。笑えるでしょう?」
「聞いてねぇよ」
「ですよねぇ? 私もどうしてこんな事を喋ったのか少し不思議です。きっと誰かに聞いて欲しかったんでしょうねぇ。そうする事で少しでも心の整理をするために。より吹っ切るために」
 まるで他人事のように言いながら玲寺は含み笑いを漏らす。
「私がまだ観客だった頃に魎から聞かされた事、何気なく言っていた事を思い出していました。冬摩の左腕、龍閃の死肉、使役神を受け継ぐ三番目の方法、そして貴方の扱い。ソコに彼の性格やら使役神からの記憶やらを重ね合わせてみると、何となく見えて来ましてねぇ。魎がこの二百年間、何を見て何を考えてきたのか」
 玲寺はソコまで言って眼鏡の位置を直し、
「断言しても良いですが、彼の狙いは『死神』などではない」
 目を細めて言った。
「魎が自分の計画の根幹も他人に話すとは思えない。彼は何でも一人でやりたがるタイプですから。つまり龍閃を自分の召鬼として黄泉還らせるのが目的ではない。魎はすでに冬摩の左腕の秘密について何かを掴んでいる。殆ど確証に近い何かをね。ソレを得た上でまだ彼が欲している物がある。ソレが『龍閃の置きみやげ』」
 龍閃の置きみやげ……確かに自分に対してもそんな事を言っていた。
「正直、まだどれなのかは分かりませんが、魎がソレを得る事は冬摩の敗北に直結する。だから私は全力で阻止する。そしてそのために貴方の協力がどうしても必要なんですよ、陣迂」
「ケッ!」
 深刻に言いながら近付いてくる玲寺に、陣迂は鬱陶しそうに唾を吐く。
「何度も言わせんなよ。俺はテメーが大嫌いだ」
「ええ。ソレは分かってます。ですから別に、仲良く手を繋いで一緒に魎を探してくれとは言いません。私は私、貴方は貴方でやればいい。ただその前に頂いておかなければならない物がある。ソレさえ手に入れば、すぐにでも退散いたしますよ」
「ああそうかい。そりゃ嬉しいね。じゃあとっとと済ませろよ」
 スーツの内ポケットから小瓶を取り出した玲寺に、陣迂は自棄気味に言い返した。
 こんな無様な格好をするハメになったのは全て自分の責任だ。例え殺されようと文句は言えない。いや、むしろ殺して欲しい。こんな生き恥を晒すくらいなら。
 今なら少しだけ分かる。自分に負けた時の麻緒の気持ちが。そして冬摩に負けた時の玲寺の気持ちが。
「まぁ右腕の治療費代わりだと思って頂ければ、少しは苛立ちも収まるのではないかと」
「今度会ったらブッ殺す」
「楽しみにしていますよ」
 玲寺は片膝を付いて小瓶からゴム栓を外し、自分の足元に近付けた。





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