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  廃墟オタクは動じない  

 母校である夕霧高校に教育実習生として訪れた天草 終一朗(あまくさ しゅういちろう)。しかし彼の目的は教師になることではなく、旧校舎となったかつての学び舎探索だった。
 教師や生徒たちの間で流れる、旧校舎にまつわる怪奇現象。『視える者』らによる不可思議な儀式。かつてそこで起ったとされる死亡事故。
 それらをまったく気にすることなく、終一朗は旧校舎へとおもむくのだった。

第一話 『座敷わらしと不思議な声』

 親切な警告を無視し、愛しの旧校舎へと足を踏み入れる終一朗。懐かしい匂いに混じる、かいだことのない甘い香り。そしてもう一人の来訪者が、彼を出迎える。


第二話 『思い出は苛立ちながらやってくる』

 旧校舎で見かけたのは、七ツ橋ひなたという一年の女子生徒だった。なぜか彼女のことが異様に気になる終一朗。一方、放課後の教室で目にしたのは、女霧雪穂を中心とした怪しげな儀式だった。


第三話 『認定。廃墟系女子』

  終一朗は何かに誘われるようにして旧校舎へと向かう。音楽室でひなたと再会するも、突然奇妙な感覚に襲われて旧校舎から抜け出した。これで二度目。本当に旧校舎の呪いなのか……。いや待て。一つだけ確認する方法がある。
 そして終一朗の前に現れた厳つい風貌の男、紫堂明良。警察と名乗る彼の真意は……。


第四話 『不思議な声は懐かしの声』

  紫堂のペースに乗せられ、一緒に旧校舎へと入ることになってしまった終一朗。主導権を渡すまいと先んじて会話した時、突然紫堂の顔色が変わる。「同じ、クラス……?」
 怪しげな刑事のせいで、もう一人の“紫堂”を想い起こした終一朗は、旧校舎の図書室でまたあの声を聞く。より鮮明に。より懐かしく。五年前、彼女はここで死んだ。


第五話 『人も建物もいずれはメッキが剥がれる』

  旧校舎で気を失った終一朗が目を覚ました時、近くにいたのは七ツ橋ひなただった。少し会話するうち、ここは元々神社だったと彼女の口から告げられる。詳しく話を聞くため、放課後に会うことを約束して終一朗はひなたと別れる。
 そして新校舎での授業中、女霧雪穂は『視える者』として騒ぎを起こそうとするが、周囲の反応は意外なものだった。


第六話 『明日は来ないと狐がのたまう』

  七ツ橋と約束した放課後。少し遅れて行った終一朗を待っていたのは、三人組の女子生徒たちだった。だが明らかに様子がおかしい。こちらを罵倒し、殴ってみろと挑発してくる。
 不穏な空気が立ちこめる中、それを破ったのは昨日の刑事だった。全ての事情を察しているかの様な紫堂。彼の口から出た言葉に、終一朗の体温が一気に下がる。
 「茜は事故死じゃない。殺されたんだ」


第七話 『校長公認。我が校は呪われている』

  昨日の『視える者』騒動をうけて開かれた緊急の職員会議。「我が校に怪奇現象は存在する」。その場で校長が口にした言葉は、教師陣を激しく動揺させるには十分すぎた。
 その一件のせいで旧校舎への立ち入りを牽制されてしまった終一朗。不機嫌に昼食を取る彼の前に現れたのは、女霧だった。こしあん入りおしる粉ジュースの借りを返しにきたと言うが……。


第八話 『秘密を知る者、知られる者』

  できる限りの情報を女霧から仕入れた終一朗は、放課後、紫堂明良と三度目の対面を果たす。「一人目に死んだのは――」主導権を握り、悠々と語る紫堂明良。「本当に犯人を見つけられると思ってるんですか?」強引にでもペースを取り戻そうとする終一朗。牽制し合う会話の中で出てきたのは、美術室にある地下室だった。


第九話 『美術室は愛の巣で魔物の巣』

  美術室の中で隠れるようにして存在していた地下室。そこは美術作品の保管室だった。蜘蛛の巣が濃く張り巡らされたその場所に、“秘密の取引現場”を期待したという紫堂明良。その発言に駆け引きの糸口を見出す終一朗だったが、彼が返してきた質問は――「お前さん、茜のこと、どう思ってたんだ?」――


第十話 『先入観を視極めろ』

  五年前、美術室で行われていた、ふしだらな行為。そのことについて紫堂明良は大きな疑問符を浮かべる。「何でわざわざ生徒に公表するんだ?」。彼の指摘によって次々と浮き彫りになる、校長の不審な行動。その真意は――


第十一話『告白を告げて白状します』

  前日に行った自分への戒めにより、顔が腫れ上がってしまった終一朗。その事実がクラスの雰囲気に変化をもたらしていることなどどうでもよく、ようやく七ツ橋との会話時間を持てたことに安堵する。そして彼女の口からなんと……っ、衝撃の告白が……っ。


第十二話『聞きたい声』

  七ツ橋と会話し、旧校舎に通っていた理由を知った終一朗。同時に彼女の内面の強さに触れ、尊敬の念すら覚える。七ツ橋のことをもっと知りたい。そんな感情を抱きながら会話を続けていた時、また声が聞こえる。しかしその声は、これまでとは全く別のものだった。


第十三話『真実の匂い』

  昨日、自分への活として自ら作った顔の傷。予想以上に腫れ上がったソレは、予想外のところに影響を及ぼしていた。そのことで理不尽に女霧に責められるも適当にあしらい、紫堂明良と会うために旧校舎へ向かった終一朗。「今まですまなかった!」予想外の出来事が始まるのはこれからだった。


第十四話『発症者』

  紫堂茜の体内からは微量のドラッグが検出されていた。そのことを皮切りに、紫堂明良は終一朗に洗いざらい情報を提供する。より本格的に調査するために。娘を殺した犯人――ドラッグの密売人を。終一朗は協力の代償として、一つの要求をする。それは一歩間違えれば最低な自己満足。しかし自分はあと一週間でここを去ってしまうから……。


第十五話『絶対、誰にも言うなよ』

  紫堂明良との会話が終わり、帰ろうとした終一朗は誰か他にいることに気付く。それは女霧だった。後をつけられていたのだ。ありえない失態で自己嫌悪に陥るも、彼女の口を封じるため、向こうが投げかけてきた『設定』を利用した。終一朗はこの時を境に、“某国の特殊エージェント”になったのだ。


第十六話『遠い帰路』

  なりゆきで女霧を最寄の駅まで送ることになってしまった終一朗。“特殊エージェント”の話題に触れさせまいと、どうでもいい会話で何とか時間を潰す。そんな中、女霧の口から中学時代の話が語られた。それは彼女が最高の時に起こった、最低な出来事……。


第十七話『暴け! 『光トカゲ』の正体!』

  今まで気にはなりつつも、考えることを後回しにしてきた存在――『光トカゲ』。休日を利用し、終一朗は彼(仮)についての詳細な考察を行った。監視されている気がしてならないからだ。メールに書かれた文章の行間を読み解き、『光トカゲ』の人物像を絞り込んでいく。そして最終的に導き出した結果は、『令嬢熟女』だった。


第十八話『不幸中の後悔』

  『光トカゲ』を呼び出して、遠くから確認してみよう。半ば興味本位から始まったおびき出し作戦。待ち合わせの時間から一時間半ほど過ぎた時、それらしき人物が現れる。だが確証が持てない。さらに一歩踏み込むべきか? いや――。好奇心を押さえ込み、リスクの回避を優先する終一朗。そうこれでいい。そう思いながらカプセルホテルに戻った時、そこにはさっき見た人物が立っていた。その正体は……。
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