廃墟オタクは動じない

モドル | ススム | モクジ

  第十話 『先入観を視極めろ』  

「なるほどねぇ。そんでさっきのトンデモ発言に繋がるわけだ」
 図書室。
 さっきまでいた美術室の真上にある、旧校舎二階の角部屋。
 埃とカビと古い紙の匂いが濃く充満する静かな空間。この部屋だけ他とは違う雰囲気を持っている――いつ来てもそんな気がする。
「まぁ取り合えず、だ。お前さんが茜の声を聞いたってのが本当だったとして、そいつが誰かの嫌がらせだってんなら、確かにターゲットは茜の声を知ってる奴ってことに絞られるわな」
 紫堂は本棚の上辺りを適当に見ながら、何かを確認するように言う。
「で、お前さんの推測だと、嫌がらせしてる奴が校長で、ターゲットは俺ってわけか。なるほどなるほどぉ。なかなか面白ぇじゃねーか」
 ここに来るまでにした私の説明を頭の中で整理しているのか、紫堂は歩きながらもう一度内容を繰り返した。
 さっきはお粗末な結果になってしまったが、しょうがない。紫堂茜への感情に関しては、私自身も良く分からないというのが正直なところなんだ。だから変にごまかそうとすれば、ああやって墓穴を掘る。
 取り合えず私が質問する番に持ち込めたんだ。それで良しとする。もう一度仕切り直しだ。
「で? その後は?」
 歩きを止め、突然こちらを振り返って紫堂明良は聞いてくる。
「後?」
「声を聞いた後だよ。当然調べたんだろ? こん中。スピーカーか何か見つかったか?」
「……いいえ。声が聞こえなくなってすぐに昼休みが終わって、その時はそのまま退散しました」
 気絶したことや、七ツ橋に介抱されたことは言わない。私が聞きたいことには関係していないし……何より情けない話だからな。
「そっかそっか。じゃあまぁ、いっちょ探してみますか」
 フラッシュライトを部屋の隅に向け、紫堂明良は口笛を吹きながら再び歩きだす。妙にご機嫌なのが、こちらとしては癪に障るが、ひとまず我慢だ。スピーカー探しを紫堂明良の方から自発的にやってくれているんだ。一つ手間が省けた。
 紫堂茜の声を使った嫌がらせに彼がどう関与しているか、じっくりと観察できる。校長を疑っているとは言ったが、それはあくまでも可能性の一つで、彼本人が嫌がらせの仕掛け人であるケースも考えうるのだから。
 スピーカーをあまりにあっさり見つけたらそれを疑う。だが美術室であの分かりにくい保管室を見つけたという実績があるから、やはり重要になってくるのは発見時のリアクションだな。
 とにかく観察する。
 紫堂明良に背中を向けて探すふりをして、百均の手鏡で常に彼を監視し続ける。LEDライトの光が鏡で変に反射しないように気をつけないとな。
「しかしまぁお前さんも大したもんだよな」
 鏡の中で、時折軽く飛んでみたり、突然しゃがみこんでみたりと、随分騒がしい探索の仕方を続けている紫堂明良が、弾んだ声で言ってくる。
「何が、ですか?」
「声だよ、声。お前さんが聞いたって声」
 紫堂明良は机の下にもぐり込み、タイルカーペットの上に積もった埃を手で払いのけながら返した。
「だからそれが何なんですか」
「いやな、五年も経ってるってのに、よく声だけで茜だって分かったな、って思ってよ」
 一瞬、手鏡を持つ手が緩んだ気がして慌てて持ち直す。
「人間の目とか耳とかってのは曖昧なもんだ。だまし絵とか、空耳とか、よくあんだろ。まぁその分、見たいように見て、聞きたいように聞くってことに関しちゃ、実に良くできてるんだがな」
 確かに。
 あの時、私は何の疑いもなく紫堂茜の声が聞こえたと思った。音楽室で聞いた時にはひどいノイズ交じりで、それが男の声か女の声かすらも分からなかったのに。図書室では……。
「お前さんの記憶力が抜群なのか、それとも茜のことを普段から意識してたのか、あるいは――」
 あの時、私は何をしていたんだ? 図書室に入って、紫堂茜のことを考えた。何について? 死んだ時のことについて。どういう風に? 彼女が事故死ではなく、誰かに殺されたのではないかと。しかしそれは――
「単なる先入観か」
 ――そこにあると思うから、ない物まで見えた気になる。
 以前、自分で紫堂明良に言った言葉だ。
「あいつは本読むの好きだったからなぁ。それこそジャンルを問わずに何でもだ。えれぇリアルな虫の図鑑とか見てた時には、さすがにびっくりしたけどな。学校で借りてきたらしいけどよ、女ってのは苦手なんじゃないのか? 普通は、そういうの」
 先入観……。声を聞く前に紫堂茜のことを考えていたから、彼女の声であるかのように聞こえた。あの声は紫堂茜のものではない? 聞く側の意識によって容易に左右される、特徴の無い中性的な声――
「お前さん、ひょっとしてここでよく茜を見かけたんじゃないのか? 図書室っていやぁ茜ってイメージがなかったか?」
 そのイメージが先行しすぎたせいで聞き間違えた? 聞きたい声を聞いただけだった?
 もしそうだとしたら、私は完全に罠に引っかかったということか。仕掛け人の思惑通り、勝手に色んな可能性を考えて、勝手に疑って、そして思考を撹乱させる。
 旧校舎に入り込もうとする生徒たちの排除にはうってつけだろう。彼らはオカルトだと決めてかかり、そのことをクラスで吹聴する。そうすればさらに抑止力は高まる、か。
 まぁ、それも本当に私が聞き間違えていたのならの話だが。
「否定はできねぇって顔だな」
 紫堂明良の声にハッとなり、私は思考を中断した。持っていた手鏡の中では、いつの間にか紫堂明良が立ち上がりこちらを見ている。いや、鏡を見ている? とはいえこの暗がりでは、細かい表情までは見えないはずだが……。
「ま、何にせよその声を出してるもんがどっかにあるはずなんだろ。そいつを見つけりゃはっきりする。さすがに娘の声を聞き間違える親はいねぇよ」
 半笑い気味に言い終えて、紫堂明良は再び声の発生源を探す作業に戻る。
 もし見つかれば、はっきりするのは間違いない。聞き間違いかどうかは勿論のこと、ひょっとしたらその機材から持ち主を割り出せるかもしれない。まさにそういうことを生業にしている人間が、目の前にいるのだから。
 だが見つからなかったら。
 一つ、気になっているのは七ツ橋の反応だ。まだ本人に確認したわけではないが、彼女は声を聞いていないような雰囲気がある。私が声を聞いたのは計三回だが、一回は七ツ橋と一緒にいる時だった。だがあの時、彼女は私の変調に即反応した。もし自分にも不可解な現象が起こっているのであれば、ああはならないはず。
 それにほぼ同時に訪れた目眩。あれはどう説明する? あれも私だけで、七ツ橋の身には何も起こってないようだった。まさか七ツ橋は本物の『視える者』だから効かない、とか。
 ……馬鹿か私は。
 とにかく探そう。見つかればいいんだ。見つかりさえすれば、こんな面倒なことを考えなくて済む。見つかりさえすれば――

 一時間近く探しただろうか。
 結局、それらしき物は出てこなかった。
 途中、実は紫堂明良が犯人で、「あーこんなところにー」なんて声を早く上げやがれ畜生、という淡い期待も抱きはしたのだが、結局実現することはなかった。
「……まぁ、そんな訳で残念な結果にはなっちまったが、お前さんが探りたがってることには応えられたか?」
 トレンチコートの袖で額の汗を適当にぬぐい、紫堂明良は息を吐いてテーブルに腰を下ろした。
「そうですね。少なくとも今、これ以上追求しても無駄だということが分かりました」
 私はズボンに付いた埃を払いながら、ため息混じりに返す。
 結論として、この謎の声の件について、紫堂明良が関与しているかどうかは分からなかった。
 声の発生源が見つからない以上、その時のリアクションから判断することもできない。外は真っ暗で、これ以上続けても見つけられる望みは非常に薄い。そもそも存在するかどうかも分からない。
 だから今日のところは保留だ。
 取り合えず、私の先入観であの声が紫堂茜のものに聞こえたかもしれない、という見方は収穫といってもいいだろう。多分、言われないと気付かないことだった。
「少なくとも今は、か。食えないねぇ。じゃあまた明日、放課後の早い時間に探してみるか。俺も聞いてみたいしな」
「昼休みに探しときますよ。それでダメなら他の可能性を考えましょう」
 とにかく明日、七ツ橋と話す。もし七ツ橋が声を聞いていないなら、元から無いと考えた方がいい。それに紫堂明良が積極的なのも何か引っかかる。無いものを延々と探させて、こちらを消耗させるのが目的かもしれない。
「他の可能性? 例えば?」
「放送室とか」
「おいおぃ、ここに電気は通ってないぞ」
「という先入観を逆手にとってる可能性ですよ」
「ああ、なるほど。先入観、ね」
 はんっ、と鼻を鳴らして得心したように言い、紫堂明良はタバコをくわえて火をつけた。
「ま、何にしろ明日だな。込み入った作業をするには、今日はもう遅すぎる」
 同感だ。
 なら次が最後だろう。
 今日の話し合いは私が最初に質問した。だったら紫堂明良の質問で終わるのが自然な流れ。向こうは当然そのつもりだろう。こちらも勿論了承している。
「じゃあ、シメだな」
「ええ」
 さぁ、質問はなんだ。美術室が立ち入り禁止になった理由を聞いてくるのが妥当な線だが、また訳の分からない方向から攻められるかもしれない。
「明日は晴れるといいなぁ」
 まずは様子伺いか。別にいいさ。好きなだけすればいい。
「いやー、この湿気は結構腰に来るんだよ」
 ん? 出口に向かって?
 そうか、場所を変えるというわけか。
「職業柄、夜の長い仕事が多くてねぇ。老体にはこたえるわ」
 どこに行くつもりだ? 階段を下りて……。ああ、また美術室に戻る気か。
「若いモンにバトンタッチしたいんだが、なかなか手放しで任せられる奴がいねぇんだよなぁ。頼むぜ、まったくよぉ」
 いや違うな。正面入り口……。外に出るつもりか?
「ああそうだ、お前さんなら大歓迎だぜぇ? もし就職に困ったら連絡してこいよ。名刺、渡してあるよな?」
 何だ。何が言いたいんだ。話の筋がまるで見えない。というかもう旧校舎を出てしまったぞ。
「じゃあ、また明日。同じ時間にな」
 そのまま紫堂明良は帰――
「ちょっと」
「あん?」
 しまった。どうして呼び止めてしまったんだ私は。
「そっちからの質問は、いいんですか?」
 そして何を聞いているんだ私は。
「質問? ああ、次は俺の番だったか。まぁいいや別に。知りたいことは分かったしな」
「美術室のこととかは?」
 ああもう意味が分からん。せっかく向こうが、もういいと言っているのに。
「律儀だねぇ、お前さん。わざわざ教えてくれるってのか」
 律儀なんじゃない。馬鹿なだけだ。壮大な肩透かしを食らって、脳細胞が力一杯逆走してるんだよ、こんちくしょう。
「でもまぁ、そいつを詳しく聞いても意味がなさそうだしなぁ」
「意味がない?」
 紫堂明良の言葉を私は語尾を上げて繰り返す。
 どういうことだ。まだ内容を聞いてもいないのに、なぜその情報の価値の有無を判断できる。
「誰かが中でエロいことしたせいで出禁になったんだろ?」
「……っ」
 一瞬、何か言葉が出かけて、また喉の奥へと引っ込んだ。
「俺が『茜のことどう思う?』って聞いた時にお前さん言ってたじゃねぇか。『ふしだらな』って。あれはお前さんが、俺の質問を“美術室について”だって思い込んでたからだろ? いやぁ先入観ってヤツはホント怖いよなぁ。ひょっとしたら、まだあるかもしれねぇな。先入観」
 トレンチコートの内側から取り出したニットキャップをかぶり直し、紫堂明良は口の端に笑みを浮かべて見せる。
「けどよ、お前さんのその言葉を聞くまで俺は知らなかった。この学校関連のニュースは全部把握してるが、初めて聞いた。つまり公表はされてなかったってことだな。学校の中だけで知られてたわけだ。それも生徒同士の噂レベルなんかじゃねぇ。教室一個が丸ごと閉鎖されたってことは、当然学校もそいつを認めた上でってことだ。な?」
 そこまで言って一旦言葉をきり、紫堂明良はタバコの煙をくゆらせながらこちらを流し見てくる。
 今、紫堂明良が言ったことは全てその通りだ。
 卒業の一ヶ月前、突然校長から全校生徒に発表があり、立ち入り禁止の旨が伝えられた。二度とこのようなことが起こらないようにと、全校生徒に注意を促していた。
「でもよ、それっておかしいと思わなかったか?」
 どこか楽しそうに言って、試すような視線を送ってくる紫堂明良。
 おかしい……何かが、おかしい……?
「普通は認めねぇよ、そんなモン。誰かがマスコミにタレこんだってワケでもないんだ。校内だけでカタつくような問題を、なんでわざわざ話題性の高い理由つけてふれ回るかねぇ。事実だとしても普通は絶対に認めねぇ。教室閉鎖するにしたって、もっと当たり障りの無い言い訳考えるだろ」
 校内でのふしだらな行為。当然、学校としては隠したい。だから校外に漏れないように、注意喚起はされていた。結果として外に流出するようなことは無かったが、もっと確実に隠蔽できる方法があった。
 そもそも生徒に公表しない。
 どうしてそんな簡単なことをしなかったんだ? なぜわざわざリスクを取るようなまねを……。
 それにどうして、その簡単なことをしなかった学校に対して、私達は疑問を抱かなかったんだ?
「俺はまず嘘だと思うねぇ。大体あの部屋、エロいことすんのに向いてないだろ。あんな人気のありそうな場所、まともな神経した奴らなら選ばねぇよ。まぁ、そういうのが興奮するってんなら別だけどな、ハッハ。ま、普通は三階とか、もっと上の階の部屋探すだろ」
 美術室のある一階は全ての学年が通る、最も人通りの多い階。誰かに見つかりたくないのであれば、普通は最上階を選ぶ。
 事実、今日の昼休み。女霧との会話で、場所を変えて話をしたいと言った時も、彼女は最上階である五階を選んだ。五階にはクラスルームがなく、下の階からしか人の流れがない。だから見つかりにくくて最適だと判断したんだろう。その通りだと思う。
 しかしこの場合は……。
「何かもっと別の理由があったって考えるのが自然だろ。エロい行為よりもっと話題性の高い何かが。例えばあそこで死体が見つかった、とかな。そいつから目を逸らさせるために、思春期のコゾーどもが食いつきそうなネタを用意したってのはどうだ? なんなら例の地下保管室、もう一回調べてみるか? いい“掘り出しモン”が見つかるかもよ? 俺はあんま興味ないけどな」
 そうだ。あの時、みんなの興味関心は『美術室の閉鎖』に対してではなく、『誰と誰が』に向いていたから。そちらへのベクトルが強すぎて、他のことに疑問を挟む余地がなかったから。
 だから受け入れてしまっていた。こんなにも粗の多い理屈を、当然のこととして。
 校長が何かを隠そうとしていたのは間違いないだろう。なにせやり方が同じなんだ。旧校舎に生徒を立ち入らせないために、怪奇話を持ち上げるのと。
 真実から目を逸らすために、嘘をでっちあげる。そして嘘を積極的に蔓延させるために、あえて注意しない。
 全く同じだ。今も、五年前も。
 これが校長のやり方という訳か。
 なら、今朝の職員会議での『怪奇現象は存在する』発言も、裏で何か隠そうとしていると考えるのが自然だな。もともと怪奇現象うんぬんのくだりは信じていなかったが、打算に基づいた虚偽だということもほぼ確信した。
 何を隠しているのか。隠そうとしている物が、今と五年前とで同じなのか違うのか。
 そしてそれが紫堂茜の死に関係しているのか。
 分からないことは多いが、それだけに校長のやり方の気に入らない度合いも大きい。
 紫堂明良の言う通り、例の地下保管室はもう一度見てみる価値があるな。
「考えはまとまったかぃ?」
 紫堂明良はニヤニヤと下品な笑みを浮かべて言ってくる。
「ま、今言ったことも所詮はオッサンのたわごとだ。参考くらいに聞いといてくれや。お前さん頭いいんだからよ、自分の脳みそ使ってもう一回考え直してみりゃあ、何か面白いモンに気付くかもな。あ、先入観はどっかに捨てとけよ?」
 はっはっは、と豪快に笑い、紫堂明良は吸っていたタバコを携帯灰皿でもみ消す。
 今の話はあくまでも紫堂明良の視点から見た時の理論。そんなことは分かっている。
 だが事このことに関して、私は紫堂明良以上に客観的には見られないだろう。
 なぜなら紫堂明良はたった今、美術室の事情を知ったのだから。私の『ふしだらな――』という、たった一言の言い間違いから、あっという間にここまで理論を組み立てたんだ。主観的な情報の介入はほぼゼロと見ていい。
 そう。本当に、この僅かな時間で。
 相当な頭の回転速度だ。
 こいつが私をどう使いたいのかは分からないが、もしこいつの要求に百パーセント私が応えられれば、あるいは本当にたどり着けるかも知れない。
 紫堂茜の死の真相に。
 彼女を殺した犯人に。
 何かと鬱陶しい中年だが。出来るだけ関わり合いになりたくないと思っていたが。
 ただ旧校舎に入り浸っているよりは、気持ちの整理がつけやすいかもしれないな。
 紫堂茜のことだけではなく、七ツ橋のことも――
「じゃあ、また明日な」
「ええ」
 短く声を交わして、私達は別れた。

 何が真実か。
 そんなものは人それぞれだ。
 見たいのもを見て、聞きたいものを聞いて、信じたいものを信じる。
 人は先入観からは逃れらない。
 しかし軽減することはできる。
 ただひたすら事実を見つめることだ。
 そうすることで極力主観性を排除し客観性を高められる。
 例えば今、この大量のメールをどう解釈するのかも、そういった大局的な視点からの冷静な対応が求められているのだ。

――……
【送信者】:光トカゲ
【件名】:大丈夫ですか?
【本文】:
 今元気ですか? ちゃんと食べられいますか? 食堂のメニューは口に合いますか?
 気分が悪くなったら、無理をせずすぐに帰ってくださいね何ごとも体が資本ですから
……――

――……
【送信者】:光トカゲ
【件名】:つらいですか?
【本文】:
 ストレスですか? 教育実習はそんなに疲れますか?
 もしつらいときにはすぐ美容院に行ったほうがいいですよ。雨に濡れたらすく乾かしてください。疲れたら休んでくださう。
……――

――……
【送信者】:光トカゲ
【件名】:明日これますか?
【本文】:
 もし疲れすぎていたら、教育十種は休みましょう。理由があればきつと大丈夫ですよ。
 残念でしか、教育実習をやめてしまっても良いかもしれません。お話できなきなるのは残念ですが。
……――

――……
【送信者】:光トカゲ
【件名】:いきてますか?
【本文】:
 死ぬは一番いけないことです。何かつらいこどかあるのなら、やめほうが良いです。教育実雌雄はやめましょう。もう旧校舎にいくのはやめましょう。
……――

――……
【送信者】:光トカゲ
【件名】:
【本文】:
 きても旧校視野はやめてください。本当に効けんんです。死んでしまうます。やめましよう。
……――

 ……。
 ……普通に怖いんですけど。
 まず事実だけを列挙しよう。
 紫堂明良と別れてカプセルホテルに戻った。
 携帯の電源を切っていたことを思い出した。これは紫堂明良との会話に集中するためだ。
 電源を入れた。
 『光トカゲ』からのメールに返信していないことを思い出した。
 返そうとしたら携帯が自動でメールを受信し始めた。
 メールの内容を確認した。
 夢オチを期待した。
 現実の厳しさを知った。
 今の状況に至る。
「うーむ……」
 カプセルホテル内のベッドに座り込み、私は客観的に思考する。
 大量のメールは、私が返信をおこたった直後から始まっている。
 誤字脱字、変換ミスが目立つ。それは後になるほど顕著になり、また文面は単純化している。
 教育実習と旧校舎探索の中止を促している。これも後になるほど表現が強くなる傾向にある。
 全体的に『光トカゲ』の焦りが読み取れる。
 これらの大枠から推測するに『光トカゲ』なる人物は、極度の心配性であるとともに重度の寂しがりやである、と。
 ……できればそう結論付けたいところだが、今回のこれはちょっと、なぁ。
 細かい文章考察はまだしていないが、何か狂気めいたものを感じる。少し、この『光トカゲ』が誰なのか考えた方が良いな。もし彼(仮)が学校関係者で、身近にいる人物だとしたら……用心した方がいい気がする。なんとなく。
「ふぅ」
 ひとまず返信して今日は寝よう。
 紫堂明良との腹探り合戦で、頭がこれ以上の思考を拒否している。休息が必要だ。

――……
【送信者】:廃墟定食
【件名】:Re:
【本文】:
 つかれました。もうねます。
……――

 これでよし、と。
 明日は実習五日目、金曜日。終われば休日だ。
 あと一日、乗り切れば――
モドル | ススム | モクジ





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