人形は啼く、主のそばでいつまでも

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  Level.3 『悔しいが礼を言ってやる』  

『モンスターが現れた。コマンド選んでください』
 ○戦う。
 ○逃げる。

⇒○取り合えず自分に火の粉が降りかかってくるまで無視する。

 と、のんびり構えているわけもいかないようだ。
 このまま何もしないでいれば、数分後には私は家と一緒に大地と一体化するハメになる。
 確実にコチラに近づいてきている竜型ドールと女型ドールを窓から見ながら、私はスチールラックの前に駆け寄った。
「【ラグ】【フェム】、おいで。行くわよ」
 私は最近生み出したばかりのドール二人に声を掛ける。ラミスへのイヤガラセのために用意した、戦闘に特化したタイプのドールだ。
《イェー!》
《行くぜ相棒!》
 甲高い声を上げながら、刀型ドールと男型ドールが私の白衣のポケットの中に入り込む。
「さあメルム! いよいよキミの力を俺のために振るう時が来た! 打倒教会の旗を掲げ、存分に暴れるのだ!」
「お前の戯言は後でゆっくり聞こう。今は目の前の問題を片付けるぞ」
 私は冷たく切り捨て、家を飛び出した。
 中心街から伸びている黄色の土で出来た道の上で、二体のドールが激しい攻防を繰り広げていた。道の両サイドに等間隔で植えられていたはずの街路樹は、彼らの周りだけ無惨な姿となって横たわっている。
「このおぉ!」
 女型ドールから少し離れたところに立って、ドールマスターらしき女性が叫び声を上げた。ソレに応えて女型ドールは、長い黒髪が真横に靡くほどの高速で竜型ドールとの間合いを詰める。
 あの子は……。
 そのドールマスターには見覚えがあった。
「で? どっちに味方するんだ?」
 いつの間にか私の隣りに来ていたレヴァーナが、腕組みして偉そうにふんぞり返りながら聞いてくる。
「……竜の方を倒す」
 竜型ドールの懐に入りきる前に、巨木の幹ほどもある太い尻尾でなぎ倒された女型ドールを見ながら、私は少し複雑な表情で返した。そして両手に亜空文字を展開させ、その中に刀型ドールの【ラグ】と男型ドールの【フェム】を飛び込ませる。
「行け!」
 【ラグ】は大きく反り返った曲刀、【フェム】はショルダーガードのない軽装鎧に身を包んだ赤い短髪の少年になると、地面を蹴って竜型ドールに突っ込んだ。
 竜型ドールはすぐコチラに反応すると、四本の足でしっかりと大地を捕らえて構える。そして鋭い牙の突き立った凶悪な顎を開けた。
 直後、圧倒的な熱量が二人を呑み込む。
「おいおい!」
「騒ぐな」
 竜型ドールの放った炎に包まれた二人を見て叫くレヴァーナに、私は冷静な声で短く返した。
 次の瞬間、竜型ドールの絶叫が辺りに響き渡る。耳をつんざく振動波は大気を鳴動させ、街路樹から大量の枝葉をこそぎ落とした。
「ど、どうなったんだ?」
 レヴァーナの疑問に答えるかのように竜型ドールの背中が裂けたかと思うと、曲刀の【ラグ】を手にした【フェム】が奇声を上げながら飛び出してくる。
「あんなチンケな炎で私のドールが焼けるか」
 二人は炎を物ともせずに竜型ドールの口の中に飛び込み、そして内側から体を破壊したのだ。
 ま、私が戦闘用にと気合いを入れて創ればこんなものさ。
「さすがはメルム、圧倒的だな。俺が認めただけのことはある」
「ちっとも嬉しくないぞ」
 無愛想に言い、私は【ラグ】と【フェム】を封印体に戻す。二人は甲高い声を上げながら上機嫌で戻ってくると、差し出した私の手の平に乗っかった。
「……ん?」
 ねぎらいの言葉を掛けようと二人に目を落とした時、私は彼らの体の一部が変形してるのを見つけた。
 溶けている……。
 竜型ドールが炎を使うのは十分に予想できたから、耐火シールド力の高いドールを選んだはずなのに。竜型ドールを操っていたドールマスターもかなりの使い手ということか。
 しかも見たところ近くで操っている様子はない。つまり真実体にした後、ドールに自律行動をさせられるほどの技術を持っているということだ。更にドールマスターからの感情によるエネルギー補充がないにもかかわらず、あけだけの火力……。
 何にせよ、かなりの使い手であることは間違いない。
「どうしたメルム。腹でも痛いのか?」
「……そんなところだ」
 適当に返して私はドール達と一緒に家に戻る。
「おい。あの子はどうするんだ」
「知るか」
 別に助けようと思ってした訳じゃない。私に実害が及ばなくなればそれでいい。だから放っておけばいい。
「おいメルム! 何を拗ねている!」
 あのバカ……! デカイ声で私の名前を!
「先輩!?」
 ドアの外から聞こえる女の声。
「ち……」
 私は小さく舌打ちして、溜息混じりに二人のドールをスチールラックに戻した。代わりに、悩みのなさそうな顔付きで羽根繕いをしている黄色い物体を掴み上げる。
 全く、厄介事というのはどうしてこうも続くんだ。実に不愉快だ。
「セン、パイ……?」
 戸惑いと疑問を投げかけてくるレヴァーナに、私は思いきりハウェッツを投げ付けた。

「初めまして! ルッシェ=メルヘンヴェールと申します! アカデミーではメルム先輩に大変お世話になりました!」
 軽くウェイブがかったセミロングの銀髪を大きく揺らしながら、ルッシェはレヴァーナに向かって深々と頭を下げた。
 ネコ耳のようにも見える大きなチェック地のリボンが特徴の可愛い女の子だ。背丈は私よりも少し高いくらい。愛嬌のある顔から振りまかれる無垢な笑顔は、アカデミー時代かなり多くの男達を魅了してきた。
 ウシ柄のポンチョを着てどこへでも出かけるあたりかなりの天然なのだが、そんな世間ずれしたところがまた人気の秘密でもある。
 ま、あまりに天然すぎて扱いに困ることも多かったんだが……。
「これはこれはご丁寧に。俺の名前はレヴァーナ=ジャイロダイン。ジャイロダイン家の一人息子だ。今はメルムと契約し、打倒教会に向けて猪突猛進中」
「一人息子って……それじゃラミス様の!? すごーい! 感激です! わたしこの前ラミス様と契約しました! その息子さんなんですか!? ってゆーか契約!? 先輩と!? それじゃ仲間ですね! 一緒に戦えるんですね!」
「ほぅ、キミは母とか。これは奇遇だな。残念ながら家にはあまり居着かないために、母がどんなドールマスターと契約しているのか綺麗サッパリ把握できていないがキミの顔は今記憶した。俺の良きライバルとして力一杯働いてくれ!」
「はい! って……良きライバル? 仲間じゃないんですか?」
「ふ……俺には母を超えねばならないとう重大な使命があるのだ。ま、言ってみれば今日の仲間は明日の敵と言ったところだな」
「何かよく分かりませんがお互い頑張りましょう!」
「うむ。キミとはなかなか話が合うようだ」
「そうですね!」
 まったく噛み合ってないだろ。
 私は胸中でツッコミを入れ、何度目かの溜息をついた。
 やれやれ、教会とジャイロダイン派閥の抗争だか何だか知らないが、私を変なモノに巻き込むのだけは勘弁してくれ。成り行きとはいえ、ただでさえ鬱陶しい奴と契約してしまったというのに。
「ハウェッツ君こんにちは! ちょっとおっきくなった? その角」
「まぁ、ちょっとはな。お前の方はまたでかくなったな。声がよ」
「まぁね!」
 スチールラックの縁に止まり、羽根で額の角を撫でながら憎まれ口を叩くハウェッツを満足げに見た後、ルッシェは勢いよく私の方に向き直った。
「先輩! どーもお久しぶりです! 元気でしたか!?」
「……ああ」
 床にまで届きそうなブカブカのポンチョの裾を揺らして、ルッシェは大きな栗色の目を輝かせて言ってくる。
「またお会いできるなんて感激です! 大感謝です!」
「……そうか」
 どうもコイツと話しているとエネルギーを吸われているようで疲れる。どうすればそんな四六時中ニコニコとしていられるのか教えて欲しいものだ。
 ……ま、実行したいとは全く思わないが。
「三年ぶりですね!」
「……そうだな」
「やっぱりドールの研究は続けてらっしゃるんですね!」
「……まぁな」
「さっきのドールももの凄く強かったです! さすがです! やっぱり尊敬しちゃいます!」
「……ああ」
 熱を帯び、昂奮した声で一方的にまくし立ててくるルッシェに、私は目を合わせることすらせず生返事で突き放す。
 ダメだ。この子の悪意のない真っ直ぐな視線は苦手だ。
 とにかくココにいても気分を悪くするだけだから早く帰ってくれ。
「どうしたメルム。キミは自分の後輩が嫌いなのか? 水すら出さないで」
 あぐらを組んで床に座りながら、レヴァーナがド真ん中に斬り込んでくる。
 どうしてコイツはそういう無神経な発言を平然と……。
 いや、このバカに繊細な言動を求めるなど、赤ん坊に気遣いを強要するようなモノだな。
「先輩……あの、わたし、ご迷惑ですか?」
「ああ、いや、サルの発言などまともに取り合わない方がいい。私は別にそんなこと思ってはいない」
 今のところはな。
「そうですか……」
 私のフォローに、ルッシェは小さく笑みを浮かべて安心したように息を吐いた。
 まったく、どうして私がこんな疲れることを……。
「先輩、その喋り方、あの時からまだずっとそうなんですね」
「……っ」
 ルッシェの言葉に私は一瞬だけ眉間を痙攣させた。そしてモノクルの位置を直すフリをして寄った皺を揉みほぐし、私はベッドに腰掛けて脚を組む。
「お前はどうしてジャイロダイン派閥なんかと契約したんだ? 教会じゃダメだったのか?」
 その話はもう終わりだとばかりに、私は別の話題を振った。
「え? あ、スカウトに来たんです。ラミス様が直々に。それで色々とお話して、教会がドールを悪用しようとしてるって言われて……。でも最初はお断りしたんです。わたしも先輩みたいに一人で研究していこうって思ってましたから。前に教会の人も何回かわたしをスカウトに来たんですけど全部お断りしてましたし。でも、本当に何回も何回も足を運んでくれて、わたしの力が必要だって言われて、それで何か、そこまで言ってくれるのならって思って……」
 要するにラミスの話術にはまったってことか。まぁこの子の性格が素直すぎるっていうのも理由の一つなんだろう。
「それに色々と賞とか貰ってましたし、少なくとも教会よりはラミス様の方がわたしの力を正当に評価してくれてるのかなって」 
 はにかんだような笑みを漏らしながらルッシェが発した何気ない言葉。
 私の中で、暗い感情が首をもたげ始めた。
「でも本当にラミス様と契約してよかったです! まさか先輩もしてるなんて思いませんでした! また昔みたいに一緒に研究できますね!」
「お前、何か勘違いしてないか?」
 大声を上げてはしゃぐルッシェに、私は冷たい響きを声に混ぜて続ける。
「私はお前みたいにジャイロダイン派閥と組織契約をした訳じゃない。このバカと個人契約しただけだ。だからラミスに手を貸すつもりなんかさらさらないし、お前と一緒に何かをするつもりもない。むしろお前は私の敵だ」
「え――」
 突き放すような口調で並べた私の言葉に、ルッシェの表情が一変した。
 ソレはまるで今まで信じていたモノ全て裏切られた時のような悲痛な顔付き。その純粋さゆえに傷付けられた時の衝撃は計り知れず、至福から絶望の淵へと一気に転げ落ちる。
 私も昔見たことがある。こんな顔をした奴を。
 ――鏡の中で
「俺は母を超えるために行動する。だから残念ながら馴れ合うことはできない。それは母と契約したキミともだ。そしてメルムは俺と契約している。つまり母とキミ、そして俺とメルムは別のチームであり、相容れないというわけだ。さっきライバルって言ったのはそういうことだ。ライバルとは好敵手と書く。メルムが言った『敵』というのはそういうニュアンスだ」
「そ、そうですか……」
 横手から入ったレヴァーナの言葉に、ルッシェが少しだけ救われた表情になってぎこちない笑みを浮かべた。
 この男は変なところで妙な気を利かせてくれる……。
 まぁいいさ。仮にも後輩に向かって『敵』とは私も少し言いすぎた。ここはレヴァーナに感謝しておくかな。
「じゃ、じゃあ! ソレが終わったら仲間ってことですね! ライバル同士が協力し合うなんて燃える展開じゃないですか!」
「終わったらって……」
 この子の頭の中では妖精さんが舞い踊っているのだろうか。私がスッキリするついでに、レヴァーナがラミスを超えたという自己満足に浸ることができればソコで終わりだ。契約を解除して、私はまた一人の生活に戻る。
 教会とジャイロダイン派閥の抗争だかなんだか知らないが、その先やるのはせいぜい降りかかってくる火の粉を叩き落とすだけだ。どちらとも組むつもりなどない。
「あの! わたし絶対に間違ってるって思ってたんです! 先輩みたいなすっごく優秀な才能埋もれさせちゃうなんて! 勿体なさすぎですよ!」
 体温が急激に下がったような錯覚を覚えた。
 暗く、冷たく、そして残忍な表情をした異物が私の中で産声を上げる。
「昔のアレは絶対に何かの間違いですよ! 事故ですよ! みんな分かってないだけです! わたしは先輩がスゴイってことちゃんと分かってますから!」
 どいつもコイツも。
 いつ私がそんなことをしてくれと頼んだ? いつ私がそんな陳腐な同情を掛けてくれと言った? 今さら上っ面の綺麗事だけ並べ立てられても、みじめな気分になるだけだ。
「もう一回見せつけてやりましょうよ! みんなに! さっきわたしにやってくれたみたいに沢山の人を助けましょう!」
 ダメダ――
「それで先輩がどれだけスゴイかってことをその人達に知って貰って名前が広まれば、アカデミーだって取り下げてた賞を返してくれますよ!」
 モウ――  
「それからまた頑張ればいいじゃないですか! 先輩ならジャイロダイン賞なんていくらでも取れますよ! だって私でも取れたんですもの!」
 限界、ダ――
「先、輩……?」
 下からねめ上げるようにして睨み付けた私に気付いたのか、ルッシェは困惑の表情を浮かべながら声を震わせた。
「さすがは何の苦労もなくジャイロダイン賞を取ったお嬢様なだけのことはあるな。おっしゃっていることに説得力がある」
 口の端に嘲るような笑みを浮かべ、私はベッドからゆっくと立ち上がって片眉を上げて見せた。
「で? そうやって私を見下して楽しみに来たのか? 一度取った賞を取り下げられてしまうような、孤児院出の貧乏人を見て優越感に浸りに来たのか? ん?」
「そ、そんな……!」
「随分と高尚なご趣味だな、ええ? 人の気持ちなんか全く考えずに、自分の言い分だけ強引に押し通そうとする。さぞかし良い気分だろうな。理想論の押し売りは。正義の使者でも気取ってるつもりか? まったく、世の中お前みたいな脳天気な奴ばっかりだったら、きっと抗争なんか起きなかったんだろうな」
 粘着紙な声でイヤミったらしく言いながら、私は大袈裟に肩をすくめる。
「おいメルム!」
「お前は黙ってろ!」
 口を挟んできたハウェッツを一蹴し、私はわざとらしく溜息をついて続けた。
「私のことを分かっているだと? 笑わせてくれるなよ、金持ちのお嬢様。苦労知らずのお前なんかに私の何が分かると言うんだ。どうせ私が苦しむ様を見て、コイツよりはマシだなんてこと考えていたんじゃないのか?」
「わたしそんなこと……それにお嬢様なんかじゃ、ない……」
「あーナルホドなー。自分の身分を鼻にも掛けない高等なしつけを受けてきたということか。実に慎ましいことだな。おかしすぎて涙が出てきそうだ」
 本当に、自分が情けなくて泣けてくる。
「お前言ってたよなぁ。私をこんな目に合わせたジャイロダイン派閥なんかなくなってしまえばいいって。自分は絶対にどことも誰とも契約せず、私みたいに一人で研究していくって。どうやらアレは嘘だったみたいだな。これはいい、素直で誰からも慕われていたお嬢様が大嘘つきだったとはな」
 早く、出ていってくれ。
「発表した研究内容がたまたま賞を取って良い気分になって、それからどんどん自分が認められていって、最後にはジャイロダイン賞まで取れて。そうやってちやほやされているうちに気変りでもしたんだろ。ひょっとしてジャイロダイン派閥っていいところかもってな」
 これ以上私に、こんな腐った言葉を言わせないでくれ。
「今じゃラミスと契約して仲良しこよしって訳だ。ひょっとすると、もっと前から手を組んでたのかもな。お前の受賞の速さはもの凄かったからなぁ」
 こんな低俗で、吐き気がするような暴言を――
「案外、私を蹴落としたのはお前だったりしてな」
 どうして――私は――
 汚泥の中に身を沈めたかのような、重く息苦しい雰囲気。言葉のないほんの少しの間が、自分の程度の低さと下衆な思考回路を浮き彫りにしていく。
 ルッシェの前に立ち、私は愚者の仮面を付けたまま彼女を見た。
 放心し、脱力しきった表情。焦点の合っていない目は私の遙か後ろを見つめ、つい先程まで元気よく大声を出していた口は半開きになっていた。
 ――最低だ。
 そんな声がどこからか聞こえてくる。
 しかし、それでも私の口は醜く歪み、
「……わたし――」
 なおも辛辣な言葉を叩き付けようとした時、ソレを遮るようにしてルッシェが呟いた。
「ホント……昔っから先輩に迷惑掛けてばかりで……。だから……ひょっとしたら先輩のお役に立てるかもって、思って……」
「残念だったな。お前に手伝って貰うほど落ちぶれていないということだ」
 どうして。
「……ですよね。先輩って、何でも一人でできたから……」
「お前が無能過ぎるだけだ」
 どうして……!
「……ゴメン、なさい……。もう、絶対話しかけたりしませんから……」
「そうしてくれ。バカが感染する」
 どうしてアタシはこんなことを……!
「ホント、ご迷惑おかけしました……」
「分かってるんならさっさと出ていってくれ」
 こんなクズでゴミ以下のことしか……!
「はい……」
 力無くドアのそばまで歩み寄るルッシェ。彼女は一度もコチラを振り返ることなく、おぼつかない足取りで家を出ていった。
 開けっ放しになったドアから騒々しい音と悲鳴が混じり合って入り込んでくる。まだ中心街の方では交戦が続いているのだろう。
「ハウェッツ……あの子を安全なところまで護衛してやってくれ……」
「ったく! このバカは!」
 床に座り込み、目元を片手で覆った私の頭上を、ハウェッツの羽ばたく音が通り過ぎて行った。
 何を、やってるんだろう、アタシは……。
 ルッシェがああいう子だってことは知っていたはずなのに……。ちょっと世間ずれした考えを持っていて、無防備な発言をすることが多かったけど、絶対に悪意なんかないって。純粋に相手のことを思っ言っているだけだって。
 なのに、アタシは……。
「最低だ……」
 小さく呟いて顔を上げ、私は巨石を背負わされたように重くなった体を何とか立たせる。そして視界の隅にレヴァーナの姿が映った。
「どうした。お前は出て行かないのか?」
「行かない」
 即答したレヴァーナに、私は鼻を鳴らして自嘲めいた笑みを浮かべる。
「幻滅しただろ? けどな、コレが私なんだよ。コレが今の私なんだよ」
 言いながらベッドに座り、私は片手で後ろ髪を梳きながら暗い自信に満ちた口調で続けた。
「だからソレを否定するような奴は許さない。いいか、私は悪くないぞ。薄っぺらな言葉で知った風なことを言うアイツが悪いんだ。お前も私の考え方をよく覚えておけ。付いていけないと思うのなら今すぐに契約を破棄しろ」
 そっちの方がお前のためだ。
 こんなヒネくれてイジケた考え方しかできないような奴を相手にすることはない。
「そうか、残念だが――」
 そう、それでいい。
「実に共感できる」
 ……は?
「全くもってキミは悪くない。一片の非もない。悪いのは全てルッシェというキミの後輩の方だ」
 コイツ……何を言ってるんだ……?
「だから君の望み通り、契約は続行だ」
「誰が望んどるか!」
「まぁそう照れるな。キミが実際に思っていることと逆のことを口にしてしまう病気を患っていることは分かった。やはり俺の目に狂いはなかったようだ」
「狂いぃ……?」
「間違いない――」
 ソコで言葉を切ってレヴァーナは口の奥で力を溜め、
「キミはツンデレだ!」
「誰がだ!」
 片足立ちになって体を九十度ひねり、ビシィ! と力強く指さしながら言い切るレヴァーナに、私は間髪入れずツッコむ。
「フ……酔っ払いが自分のことを酔っていないと言い張るのと同じように、自分に備わった属性という物はなかなか素直に認められないのだよ、メルム君」
「属性って言うな! 君付けするな!」
 唾が飛び散るほどに怒鳴り声を上げ、私は血走った目でレヴァーナを睨み付けた。
 まったく……コイツといると本当に頭がおかしくなってしまいそうだ。いや、ひょっとするともう手遅れかも知れない。さっきまでの陰鬱な気持ちが一瞬にして吹き飛んでしまっているなど。
「ではメルム。キミに一つよい話を聞かせあげよう。これはとある格式高い富豪の家で生まれ育ち、豊潤な知識と無限の知恵、そして優美なる教養と卓越した身体能力を兼ね備えた、ウルトラゴージャスハイパー・ナイスガイの繰り広げるハートフル・ガッツコメディだ」
 ガッツコメディて……。
「昔々あるところに、周りからちやほやされて何不自由なく暮らしていた少年がいました」
 私の前に正座し、レヴァーナは目を瞑って何かを思い出すかのような表情で語り始める。
 もう好きにしてくれ……。
「少年は非常に素直で、周りから言われたことにはすぐに頷いて従い、誰ともぶつかり合うことなく真っ直ぐに成長して行きました。また少年は人望に溢れ、自分がしたいと言ったことに周りはすぐに付いてきてくれました。さらに少年は人脈が広く、おかげでコネクションも沢山あり、欲しい物は何でも手に入りました」
 最高にイケ好かないタイプだ……。
「完璧で非の打ち所のない順風満帆な人生。しかし、少年が青年になったある日のこと、彼は一つの疑問を感じるのです。『これは本当に自分の力なのか?』、と。青年の両親はどちらも王宮に顔が利くくらいの権力の持ち主でした。『もしかすると僕は親の威光があるからこそ、ココまで来れたのではないのか?』。この時すでに青年は、スポーツや学問の場で様々な賞を取っていました。しかし、その受賞に対して根本的な所から疑問に思い始めたのです」
 親の七光り、ね……。
「その後も青年は数々の功績を残しましたが、どうしても納得できず、自ら受賞を拒否していったのです。自分が周りから認められているのは親に力があるからではないのか。親というフィルターを介さずに見た時の自分は、もっと小さくもっとつまらない存在なのではないか。そう思うと不満で不安で、とても周りからの評価を素直に受け入れることはできませんでした」
 結果を残したのに拒否、か。私とは正反対だな。
「青年がそうやって悩んでいた時、母親が突然死んでしまったのです。サドンデス。鬱でした。さらにその数年後、今度は父親も死んでしまったのです。ネクストデス。激鬱でした。二人とも直接的な死因はよく分かりませんでした。お手上げデス。超鬱でした」
 随分軽いな、オイ……。
「青年は思いました。もしかすると自分が二人を殺したしまったのかも知れない、と。親がいなければなどと少しでも思ってしまったばかりに、あわてん坊でおっちょこちょいな神様が間違って願いを叶えてしまったのかも知れない、と。しかし、青年には新しい母親がいました。生みの母親が死んだ後、父親が再婚した相手です。彼女はバリバリのキャリアウーマンで、生前の両親とは比べ物にならないくらいののヤリ手でした。青年は思ったのです。彼女は両親が残した試練なのかもしれない、と。親の威光を気にし続けていた青年を哀れに思い、自分の力で親を超えさせることで、その考えを取り除こうとしたのではないのか。それために親以上の能力を持つ人物を用意したのではないのか、と」
 状況だけを抽出して考えるとえらく暗い話なんだが、コイツが話すと電波男の妄想劇のように聞こえるから実に不思議だ。
「認めてくれないのなら認めさせればいい。力ずくで。誰の目に見ても分かるように。自分は親を超えたのだということを。自分は一人前の男だと言うことを。哀しみにうちひしがれる中、彼が選択したのはイジケではなく開き直りでした」
 開き直り、ね……。
「そして彼は根拠もなく思うようになったのです。『俺は正しい』と。『俺は間違っていない』と。『俺は何一つとして悪くない』と。親が死んだのは自分のせいではなく、自然の流れに沿っただけなのだと」
 そりゃそうだが……唐突な展開だな。
「何はともあれ吹っ切った彼は、義母を超えるために具体的な行動に出たのです。彼女が教会を敵視していることは前から知っていました。そしていつ教会と交戦状態に陥ってもいいように、戦力を集めていることも。青年は閃きました。コレしかないと。義母を超えたということを周りに認めさせ、自分でも納得するには、義母よりも先にこっそり教会を制圧してやるしかないと」
 また極端な思考だな……。
「青年は最初、全部一人でやろうと思っていましたが、少し考えただけで限界に気付きました」
 オイコラ。
「教会の情報を集めるにしても、戦力となりそうな者を見つけるにしても、どうしてもある程度は他人に頼らざるをえませんでした。さらに迷惑なことに、中には青年が断っても力を押し売ってくる者もいました。結局一人だけでやっていくことはできず、他人の力を借りるたびに歯がゆさを感じましたが、青年は持ち前の開き直り能力で乗り切っていきました」
 ソコも開き直るのかよ。
「ですが親の威光に頼って人を使うのは青年としては好ましくありません。だから青年は自分の考えていることは全て包み隠さず話し、その上で力になってくれる者だけを頼ったのです。『俺はお前を自分のためだけに利用しようとしている。今俺を手伝っても昇進や給料アップには全く繋がらないし、怪我はしても得はしないがソレでも良いなら力を貸してくれ』。そうやって裏表を持たないことが、青年にできるせめてもの誠意でした」
 バカの思考回路は理解できん。
「しかし、青年が求めていた戦力はなかなか見つかりませんでした。彼は優秀なドールマスターを探していたのですが、ギルドに登録されている者の殆どは義母か教会が押さえてしまっていたのです。ですが記憶力のいいグレートな彼は、とある人物のことを思い出しました。調べてみると、その人物はまだ誰とも契約していないばかりか、ギルドにも登録してなかったのです。有り余る才能を持ちながらもソレを活かすことを放棄し、ドール達と一緒に引きこもりライフを満喫しておりました。初めてあった時から変人だとは思っていましたが、期待を裏切らない究極のド変態だったのです」
 お前に言われたくない。
「彼はこれまでと同じように、自分の思っていることを包み隠すことなく全て話し、そのドールマスターを引き込もうとしました。しかし、彼女は持ち前の頑固で意地っ張りで高飛車な性格から青年を寄せ付けませんでした」
 ……悪かったな。
「青年が自分で稼いだなけなしの金を積むと言っても、何の見返りもなく青年に付いてきてくれた人達に協力して貰っても結果は同じでした」
 取り合えず親の威光は使ってないという訳か。
「しかし青年は諦めずにアタックを続けました。そしてある時、なんと彼女の方から契約すると言い出したのです。そして力を貸すと約束してくれました。青年は感動しました。初めてツンデレという物を見られたことに」
「だから誰がだ!」
「青年は確信しました。ようやく『愛、努力、友情、勝利』が伝わったのだと」
「な訳あるか!」
「別にキミのことだとは言ってないだろ。それとも自覚があるのか?」
 く……コイツは……。
 目を細めて薄ら笑いを浮かべ、からかうような口調で言うレヴァーナを私は舌打ちして睨み付けた。
「しかし、手と手を取り合った二人の前に思わぬ邪魔者が現れるのです。その邪魔者は純粋で無垢ではありましたが、それ故に人の痛みを知りませんでした」
 だが、続けてレヴァーナの口から出た言葉に、さっきまでの軽い気持ちが一気に吹き飛ぶ。
「容赦のない言葉は優秀なドールマスターのプライドを砕き、筆舌に尽くしがたい精神苦痛を与えたのです。まさに天使の仮面を被った悪魔。同情の余地など全くありません」
 ……違う。
「ドールマスターは思いました。地獄に堕ちろと。人の気持ちも考えずに言いたいことをベラベラ垂れ流すヤツに生きている価値などないと。そばにいた青年もソレに賛同しました」
 ……そんなこと思ってない。
「ドールマスターの怒りは最高潮に達し、全て気の利かない邪魔者に向けられました。そしてドールの力を存分に使っていたぶり殺してやると強く思ったのです」
「そんなこと思ってない!」
 気が付くとアタシは声を上げて、レヴァーナのスーツの襟元を締め上げていた。
 頬を伝って何か熱いモノがこぼれ落ちる。鼻の奥でソレが詰まり、息苦しささえ覚えた。
「――ですが、ドールマスターはその激しい怒りの中にも、相手を思い遣れる優しい気持ちを持っていたのです」
 しかしレヴァーナは全く動じることなく、穏やかな語調で続ける。
「彼女は頑固で意地っ張りで高飛車ではありましたが、同時に寂しがり屋で精神的に脆く、極めて繊細な内面の持ち主でもありました。恐らく、例の邪魔者に昔の自分を重ね合わせてしまったのでしょう」
「――!」
 魂を抜き取られたかのような果てしない脱力感。
 そう――
 その通りだ。まだ全てが上手く行っていて、自分が拒絶されることなど考えもしなかったあの頃。
 今のルッシェはあの頃のアタシにソックリだ。誰かを疑うことすら知らない、間抜けで愚かしくて、バカみたいに純粋だったあの頃のアタシと。
 そして今のアタシは、そんな純粋な気持ちを平気で踏みにじるアイツと――ラミス=ジャイロダインと――
「く……」
 口から乾いた笑いが零れる。
「ククク……」
 私はレヴァーナから体を離し、力無くベッドに腰を下ろした。
「最低だよ……ホントに最低だ……。コレが、今の私か……」
 モノクルを外し、纏めていた髪を解く。
 私がルッシェにしたことは、ラミスが私にしたことと同じ。
「頭デッカチの奴が陥る、典型的で最悪の末路だな……。今までドールのことしか考えて来なかったから、ソレを否定されるとどうしようもなくなる。ぜいぜい自分に天才だの優秀だのと言い聞かせて周りを見下して、壊れて無茶苦茶になったチンケなプライドを拾い集めることくらいしかできないんだよ」
「だからさっきみたいに、気に入らないモノは全部否定して排除しないと自我を保てない。ほんのちょっとの外乱が入り込んだだけで崩れてしまうから、誰にも邪魔されないようこんな場所に一人で住むしかない」
「その通りだ……」
 コチラの気持ちを的確に言い当てるレヴァーナに、私は口の端をつり上げて軽く頷いた。
 五年前、アカデミーで初めて罵声を浴びせられたあの時から、どんどん自分が卑屈になっていくのが分かった。かつての、ドールの研究さえできていればソレで満足していた自分とはかけ離れていくのが分かった。
 どうすればいい。どうすればあの頃に戻れる。
 何度も自分に問い掛けた。いくつもの的外れな答えを出してきた。そして無駄に月日だけが過ぎていった。
 イジケて、自分の世界に引きこもっているだけではダメだった。ただ研究に没頭しているだけでは戻れなかった。
 ひょっとしたらコイツも、一歩間違えていれば私と同じようにイジケてたのかも知れない。けど、コイツは開き直りを選択した。前向きな道を選んだ。
 だが、私は違う。私にはできなかった。
 ようは自覚が足りなかったんだろう。自分には才能などなく、所詮は凡人だということへの自覚が決定的に足りなかった。どこかで自分は特別なんだと思いたかった。
 今までそう言い聞かせて周り全てを見下して、下らないプライドを守り通してきた。
 その結果がコレだ。
 この最低なまでにイジケきった姿だ。
 今思えば、昔の自分はまだ限界を知らなかった。どんどん成長していく自分に自分で期待していた。しかしやがてソレが頭打ちとなり、自分の出した成果を拒絶され――絶望した。周りからも追い抜かれ、更に沈んだ。
 そりゃなれないさ。戻れるはずがない。
 今の自分には先への希望がない。先へ進む勇気がない。ただ今よりも落ちることを恐れて、心を閉ざしているだけだ。
 とにかく傷付くのが恐かった。大切な物を失うのが恐かった。だから、こうやって殻に閉じこもって怯えているしかなかった……。
「何度も言うようだが。キミは全く悪くない」
「悪いさ。あの子に悪意はなかった。落ち度は、ひねくれた解釈しかできなかった私にある」
「悪意がなければ何を言っても良いという訳ではない。言葉を喋り始めた子供の問題発言にだって法が適応される時もある」
「それでも私が悪くないという理由にはならない」
「だが彼女が悪くないという理由にもならない」
 コチラの言葉に被せるようにして即返してくるレヴァーナに、私は苦笑しながら顔を向けた。
「お互い様、ということか」
「まぁ、そういうことさ」 
 全く……コイツは本当に……。
 どうしてだろう、コイツの言葉には妙な説得力がある。何も飾らない分、ストレートに胸に届く。バカで的外れで強引で、けど分かり易くて安心感があって救われる。
 あの時もそうだった。三年前、初めて話した時もそうだった。
「コレで二度目、だな」
「二度目?」
 眉を上げて聞き返すレヴァーナに、私は長い髪の毛を前に回してイジリながら首を横に振る。
「なんでもない。コッチの話だ」
「ああそうか。ツンからデレになったのがか」
「だから違うっつっとろーが!」
 ポン、と手の平を叩いて心底納得したような表情を浮かべるレヴァーナに、私は歯を剥いて激昂した。
「全く、お前の病気も相当なモンだな」
「うむ。正直、初めて見る生のツンデレに、恋の病を患ってしまったのかもしれない」
「寝言は百回ほど輪廻転生を繰り返してから言ってくれ」
 呆れた声で言って溜息をつきながら、私は髪をアップにしてお団子に纏める。そしてモノクルをはめ直し、ドールを何人か白衣のポケットに潜り込ませた。
「謝りに行くのか?」
「憂さ晴らしをするついでにちょっと寄り道するだけだ」
「キミのツンデレも相当なモンだな」
 お返しとばかりに含み笑いを浮かべて言うレヴァーナを横目で見ながら、私はドアに歩み寄る。
 今ならまだ間に合うかもしれない。このまま時間だけが過ぎて、取り返しの付かないくらい溝が大きくなる前ならば。
 実に悔しくて実に腹立たしいが、さすがに今回ばかりはレヴァーナに礼をしなければならないだろう……。そういえば三年前も一応礼らしきモノは言ったが、アレでは不十分かもな。
 ……仕方ない、実に面倒臭くて実に不本意だが、このバカの野望とやらに荷担してやろうじゃないか。最初は裏でラミスがコイツを操っているのかと思っていたが、このバカが打算を隠して行動するなどといった器用なマネができるとは到底思えない。
「お、おい、先に言っておくが私は別に――」
「危ない!」
 少し声をどもらせながら振り向いた私に、レヴァーナが唐突に覆い被さってくる。直後、家のドアが内側に吹き飛んで壁にめり込んだ。
 もしあのまま出ていこうとしていたら、大怪我だけでは済まなかったかもしれない……。
「誰だ!」
 私を庇うようにして立ちながら、レヴァーナは怒りも露わに叫ぶ。
「ジャイロダインの所のバカ息子、か……。殺しても手柄にはならん、か、な……? な?」
 聞き取りづらい発音で嘲るように言ってきたのは、酷い猫背の男だった。
 全く手入れのされていない髪の毛はだらしなく肩まで伸びてボサボサに跳ね、俯き加減でコチラを見つめる爬虫類のような目の下には濃い隈が敷かれている。Tシャツにジーンズというラフな格好から覗く手足は痩せ細り、老人のように骨ばんでいた。
「コイツ……」
 彼を見ながらレヴァーナは驚愕に目を見開く。
 私は知っていた。彼の顔を。
 いや、私だけじゃない。恐らく殆どの人間が知っている。かなりの有名人だ。現にレヴァーナも隣りで――
「裸足だ!」
「ソコじゃない!」
 明らかに間違った所を指摘するレヴァーナに、私は間髪入れずツッコむ。
「ジェグ=ドロイト。ドールマスターランク一位の天才児が、おちこぼれの私に何の用だ」
 私は両手に亜空文字を展開させながら立ち上がり、レヴァーナの前に出て不健康そうな男を油断なく見た。
 私と違い、途中で挫折することなく頂点を極めた男だ。数々の賞を総舐めにし、弱冠十五歳にしてジャイロダイン賞を受賞するも、その翌年にソレを放棄。そしてジャイロダイン派閥と敵対している教会と契約を交わし、これまでとは別の路線でその名を世に知らしめた。
 つまり――軍事目的のドールの開発で。
「お前に会いたがってる人がいるんだ、な……? 付いてきてくれないか、な……? な?」 
「いきなり問答無用で扉をブッ飛ばすようなアブナイ奴には付いていくなと、小さい頃園長先生に教わったんでね」
「だよな? だから力ずく、な……? な?」
 ジェグは独り言のように小声でブツブツと言った後、異様に長い手を真横に伸ばした。
 次の瞬間、地鳴りのような轟音が辺りに響き渡ったかと思うと、周りの木から手乗りの小鳥がジェグの近くに舞い降りる。
 ――百匹以上。
「僕の竜型ドール、お前殺した、な? アッサリ、な? さすが、さすが。僕が近くで操ってないって言っても、なかなか、できない。な? な?」
 まるで面白いおもちゃでも手に入れたかのように楽しそうに笑いながら、ジェグは無数の小鳥を自分の周りで竜巻のように高速で飛ばした。
 コレ全部コイツのドール……小さいとは言えコレだけの真実体を一度に操るとは……。
「なるほど、アレはお前の創ったドールか。どうりで」
 ジェグから目を離すことなく言って、私は白衣のポケットにいた三人のドールを真実体にする。
 虎型、人型、鞭型のドールが私とレヴァーナを守るようにして展開した。
「それだけでいいのか? か?」
「少数精鋭主義なんでね」
 あまり多くのドールを真実体にしても、私が感情を注げなければ力を発揮できずに無駄死にするだけだ。それに数を操るには多大な集中力がいる。三つ以上の思考を同時に走らせることができた昔の私ならともかく、今の私にはそんな離れ技は無理だ。
 多分、ソレは向こうも同じこと。恐らく、あの鳥の大半は自律行動を取らせている。つまりドールマスターからの感情をエネルギーに変えることのできない、文字通りの人形。単純な行動しかできない目眩ましだ。
 本当にジェグが操っているドールを見極めることができれば――
「頼むから死ぬなよ、な? な?」
 その言葉が終わるか終わらないかのところで、円弧を描いて飛んでいた小鳥型ドール達が一斉にコチラへと向きを変える。空気を焦げ付かせるほどの速さで飛来した無数の点は、段幕となって私の方に降り注いだ。
「殺したくないんなら手加減くらいはするんだな!」
 舌打ちして叫び、私は自分のドール達に指示を送る。
 金色の獣毛を逆立て、虎型ドールは咆吼を上げながら鋭い爪でジェグが差し向けたドールを叩き落としていった。しかし小鳥型ドール達は全く怯むことなく、いくらやられても避けもせずに直線的な動きでの突進を繰り返す。
 コレは囮か!? ならば――
 殆ど直感に身を任せ、私は後ろを振り向くこともせずに身を低くする。直後、さっきまで私の頭があった位置を横手から小鳥型ドールが弾丸のように通り過ぎ、そのままの勢いで地面に深く体を埋め込んだ。
 扉を体当たりで吹き飛ばすだけあって、さすがに恐ろしい威力だ。小さいとはいえまともに食らったら頭がなくなっていてもおかしくない。運が良くて数週間生死を彷徨うことになるだろう。
 だが、同じ手は食らわない。それにこの攻撃で相手の狙いが読めた。
「おい貴様! いくら何でも危ないだろう! ドールで攻撃するならドールを狙わんか!」
 レヴァーナが一歩前に出て、固く握りしめた拳を胸の高さに掲げながら強く主張する。
「お前は引っ込んでろ!」
 私は人型ドールに命じてレヴァーナの首根っこを掴み上げさせ、家の中へと放りこんだ。ご、と鈍いと音がして一瞬で静かになる。気絶したのだろう。
 全くどこまでバカなんだコイツは! ヘタに出ていけば集中砲火を浴びることくらい分からんのか! ドアの辺りで留まっているから、まだせめて後ろの安全が確保できているというのに!
「心配するな、な? 僕の狙いはお前だけ、な?」
 不気味な三日月状の笑みを浮かべてイヤらしく言うジェグ。
「あーそうかい! ソレは光栄だね!」
 私の声に応えて虎型ドールが四肢をたわませ大きく跳躍する。
 狙うはジェグ本人。アイツがやって見せたとおり、ドールを攻撃するよりもソレを操っているドールマスターを潰してしまった方が早い。
「お前、頭悪い、か、な?」
 宙へと躍り出た虎型ドールに向かって、十数体の小鳥型ドールが向きを変える。そして無防備ともいえるくらいに晒された全身に、次々とくちばしを食い込ませていった。
 だが――
「固、い?」
 くちばしは獣毛に埋め込まれるだけで、ソコから先の肉を食い破りはしない。ドールマスターランク一位とはいえ、集中力を十以上に分散させてしまえばそんな物だ。それに今、真実体にしてる三体のドールは戦闘用に生みだした物。通常のドールとは攻撃力も防御力も段違いだ。
「私の生み出したドールをそこら辺の奴等のと一緒にするなよ!」
 虎型ドールの方に行かず私の方に突進してきた小鳥型ドールを、人型ドールに叩き落とさせながら私は大声で叫ぶ。
 ソレに応えて人型ドールは鞭型ドールを持ったかと思うと、自分の全身をも鞭のようにしならせて操り、空気を叩く甲高い音を辺りに轟かせた。そして虎型ドールにくちばしを立てていた小鳥型ドールを、極めて的確に打ち落としていく。
 私が虎型ドールを飛ばせたのはジェグを狙うためだけではない。ドールマスターに危機を感じさせ、ドールに守らせるよう仕向けるためだ。
 しかし単純な行動しかできない自律型のドールは急には方向転換できず、私の方に突っ込んでくる。だから自然とジェグ本人が操っているドールだけが、虎型ドールを迎え撃つ形になる。ソイツらを狙って攻撃を浴びせてやれば――
「なるほど、な、な……。他の奴等らより、は、手応えある、か、な?」
 ギョロッと見開かれた丸い目を動かしながらジェグがブツブツと言ったかと思うと、私の周りを飛び交っていた小鳥型ドールが糸でも切れたように落ち始めた。ジェグ本人が操っていたドールも動きを止めておとなしくなる。
 集中を一旦絶って制御を解いたのだろう。小鳥型ドールは封印体に戻っても小鳥の姿のままで、大きさも真実体の時と殆ど変わらない。
「コイツらじゃ話にならない、な……」
「さっさと教会に帰るんだな。そして二度と姿を見せるな。あまりしつこく突っかかってくると取り返しが付かなくなるぞ」
 変な動きをすればすぐに攻撃できるよう虎型ドールで睨みを利かせながら、私は目を細めてさらに集中力を高めていった。
「恐い顔だ、な。見れば見るほど、ソックリ、だ……」
「ソックリ?」
 俯いてクククと低く笑うジェグに、私は思わず聞き返す。そのほんの僅かな意識の乱れを突いて、ジェグの体を中心に白い輪郭の紅文字が展開した。
「やれ!」
 亜空文字をドールに触れさせまいと、私は虎型ドールをジェグに飛びかからせる。獣吼を上げ、ジェグの華奢な体に覆い被されるようにして爪を立てた虎型ドールは、突然真下から来た衝撃を腹で受けた。
「な――」
 その力は重量のある虎型ドールの体を押し上げ、ジェグに狙いを付けていた爪撃を空振りさせる。
 崩れ行く虎型ドールの体の影から現れたのは、封印体に戻ったはずの小鳥型ドールだった。
「なぜ封印体にそんな力が……」
 いや、そうじゃない。この小鳥型ドールは封印体も真実体もあまり変わらなかった。私の周りで派手に小鳥型ドールを落として見せたのは、全てが封印体に戻ったと見せかけるため。そして、たった一つの真実体だけに集中力を全て注ぐため。
「油断大敵、だ、な……」
 楽しそうに笑いながら、ジェグはジーンズに巻かれていたベルトを外す。
 大きめのバックルが取り付けられた太い革製のベルトだった。ソレを地面の上に置き、体に展開させていた亜空文字の径を広げて触れさせる。
 次の瞬間、見上げるほどの大蛇がとぐろを巻いて現れ、蠢動する皮膚を黒光りさせながら長い舌でコチラを威嚇した。
 クソ……厄介だな。コチラも一人のドールに集中するか。
 意識を失って倒れ込んでいる虎型ドールを横目に見ながら私は考えを巡らせる。しかしソレを遮るようにして、とぐろを解いた大蛇型ドールは予想を遙かに上回るスピードで急迫してきた。
「行けぇ!」
 反射的に人型ドールに指示を出す。持っていた鞭を放り出し、人型ドールは大蛇の突進を真っ正面から受けとめた。そして押し返そうとする。
 が、微動だにしない。
 クソ、この馬鹿力……。さすがはドールマスターランク一位といったところか……。
 縦に開かれた瞳孔でコチラを見てくる大蛇を睨み返しながら、私は奥歯をきつく噛み締めて感情を昂ぶらせた。しかし少しでも気を抜けば呑み込まれてしまうという恐怖で、思ったように感情がコントロールできない。
「諦め、ろ、な……? な? 大人しく僕に付いてこい、な?」
 勝利を確信したような笑みを浮かべ、ジェグは余裕の声で言ってくる。
「誰が! お前なんかに……!」
 憎め! 目の前の気持ち悪い男を! 身勝手なことばかり言ってくる教会の奴等全員を! 皆殺しにしてやるくらい憎み倒せ!
「あ、あああああぁぁぁぁぁぁ!」
 私の叫び声に応え、人型ドールの体が波打ったように胎動した。そして大蛇型ドールを徐々に押し返していく。
「やる、やる。けど、な……」
 私の頬に熱を帯びた線が引かれた。
 目だけを動かしてソチラを見る。紅い筋が生暖かい滴りを生み出していた。そして耳元では小鳥型ドールの羽ばたく音。
 コイツ、大蛇型ドールだけに集中した訳じゃなかったのか。もう一体動かしてなお、この力。
 ――強い。
 ドール本体の強さだけではない。戦い慣れている。長年、軍事用のドールを生み出し続けたのはダテではないということか。
「負けを認めろ、な、な? 素直に僕に付いてこい、な……?」
「お断りだ!」
 教会の奴等の言うことを聞き入れるくらいなら死んだ方がマシだ。
 ソレに今コイツは戦いに決着が付いたと思って油断している。虚を突いた手段でソコを攻めれば精神的に崩れる。そしてドール戦では集中力を欠いた者は、即敗者となる。
 私はジェグからは見えないように大蛇型ドールと人型ドールの影に隠れ、白衣の下に忍ばせてあるガンホルダーに手を伸ばして――
「貴様の悪行もそこまでえええええぇぇぇぇぇぇ!」 
 家の中から奇声が轟いた。
「これ以上メルム=シフォニーを虐げることはこのレヴァーナ=ジャイロダインが許さん!」
 そして両手を前に出して格闘家のように構えを取り、ジェグを見下ろしながら叫ぶ。どうやら気絶から立ち直ってしまったらしい。
 あぁ、まずい。激しい頭痛と共に集中力が急速に奪われていく……。
「どう、許さないん、だ……? ん?」
「愛と正義の名の下に貴様を倒す!」
「具体的に、は?」
「勇気と友情を力に変えて貴様を倒す!」
「一例を上げるとすれ、ば?」
「信頼と信用を背中に負って貴様を倒す!」
「……頭、わいてる、な」
 同感。
「とにかく仮にも女性の顔に傷を付けた罪は重いぞ!」
 『仮にも』は余計だ。
「うるさ、い、な……。黙、れ」
 ジェグが顔をしかめて言った直後、私の耳元で風が吹いた。
「しゃがめ!」
 だが、私が声を出した時にはもう遅い。小鳥型ドールはレヴァーナの顔面に食い込み――
「ぬううぅぅぅぅぅ! メルムだけではなく俺の顔にまでええええぇぇぇぇ!」
 両腕をクロスさせ、辛うじて直撃を免れていた。しかし大分深く抉られたのか、腕からはかなりの出血量だ。しかも小鳥型ドールはいなくなったわけではない。ただ少し突進の向きを逸らされただけだ。
「ちっ!」
 私は舌打ちし、空中で向きを変えて再びコチラに向かってくる小鳥型ドールを睨む。
 どうする。どうすればいい。今、大蛇型ドールを受け止めている人型ドールから集中を外すことはできない。これ以上他のドールを操ることもできない。
 なら、打ち落とすしかない。この銃で――
「気合い充実うううぅぅぅ! 復活! トラトラトラアアアァァァァァ!」
 レヴァーナの叫び声に応えるようにして、倒れ込んでいた虎型ドールが起きあがった。そして俊敏な動きでレヴァーナの元に駆け寄ると、小鳥型ドールを横手から叩き落とす。
『な――』
 私とジェグの声が重なった。
 ……そうか。コイツ、私と契約したから自分の感情を私のドールのエネルギーに……。
「見たか! コレぞまさしく愛! 努力! 友情! そして――」
 虎型ドールは咆吼を上げて空高く舞い上がったかと思うと、勢いよく爪を振り下ろす渾身の膂力に自重を付加して大蛇型ドールの脳天に叩き付けた。
 固く、そして湿った音。
 爪は殆ど何の抵抗もなく大蛇の頭部に呑み込まれ、周囲に激しく鮮血を撒き散らせる。
 大気を激震させる断末魔の絶叫。全身から力の抜けた大蛇は体を地面に横たえ、瞬時にしてバックルの破壊されたベルトへと姿を変えた。
 真実体の死亡によって強制的に封印体へと戻ったのだ。
「勝利!」
 ソコにレヴァーナから高々と勝利宣言が届く。
「契約、か……まさか、の、伏兵だ、な」
 ジェグは苦々しく言ったかと思うと亜空文字を体に展開させる。ソコに小鳥型ドールを飛び込ませて巨大化させると、足に掴まって空へと逃げ去った。
「待てぃ! 貴様ぁ! 一言謝っていかんかあああああぁぁぁぁぁ!」
 ジェグの後を追ってレヴァーナの放ったバカデカイ声が、空気に溶けて消える。
 相変わらずズレた考えの持ち主だ。
 しかし――
「使える」
 ぴょんぴょん跳びはねながらジェグの去って行った方向に喚き散らしているレヴァーナを、私は後ろからじっと見つめる。
 コイツは確かにバカだが、その度合いが人知を大きく越えている。ソコから繰り出される感情エネルギーの凄まじさたるや。いや、感情という表現など生ぬるい。激情、烈情、超情――怪情だ。私が自分を高めて高めて高めて高めまくってようやく到達できるポイントに、コイツは愛だか友情だかを掲げることで一瞬で行き着ける。
 しかもただ単に力を注ぐだけではない。私を介して自分でドールを操ることもできるらしい。私が生み出した最高のドールにコイツの怪情で力を与えてやれば無敵のドールが完成するかも知れない。どんな障害をも物ともせず、ありとあらゆる敵をはねのけられる最強のドールが。
「おい」
 私は自分のドールを封印体に戻しながら電波男に声を掛けた。
「何だ。俺は今忙しい」
「お前の野望を叶えてやる。教会を潰すことでな」
 私の言葉にレヴァーナは一瞬驚いたような顔付きになった後、口の端をつり上げて満足げに笑った。
「良い目になったではないか、メルム。好奇心と向上心に満ちあふれていた頃の目だ」
「つまらないことを言うな。ただ降りかかってくる火の粉を払い落とすだけだ。私を誰と会わせたいのかは知らんがコチラから出向いてやろうじゃないか。また家を壊されてはたまらんからな。それに他にも色々と聞きたいことがある」
 私はやれやれと肩をすくめながら微笑して返す。
「よし、キミが心を開いてくれた記念に今回の修理費は俺が持とうではないか」
「実に気持ちの悪い申し出だが特別に受け入れてやろう。で? ソレはちゃんと自分で稼いだ金なんだろうな」
「当たり前だ」
 胸を張って言うレヴァーナに私は軽く頷く。
 まぁ自分で表裏がないって言い張るコイツが言うんだからそうなんだろう。
「取り合えずは傷の手当てだな。消毒して包帯くらいは巻いてやる」
「傷……っておわあああぁぁぁ!? 何じゃこりゃアアアァァァァ!」
 腕からだくだくと流れ落ちる血を見て自分の重傷に初めて気付いたのか、レヴァーナは目を剥いて叫び声を上げた。
 全く、どこまでもズレだ奴だ。
「ああ、あとついでにラミスのところの戦力も聞かせろ。協力するつもりなんか全くないが、上手く利用できるかもしれん」
「残念ながらソレは無理だ」
「なぜ」
「全然把握してないからな!」
「威張るな!」 
 コイツ本当にラミスの息子なんだろうな。後で「実はレヴァーナ=ヂャイロダインだ!」とか大威張りで言ってきたらどうしてくれよう。
 ……まぁいい。どうせ基本的には混乱に乗じる形になるだろうから、自分で調べるさ。それに、この後会って謝らなければならないジャイロダイン派閥の関係者もいるしな。
「とにかく家に入れ、レヴァーナ。また何か変な物が飛んでくるかもしれんぞ」
 言いながら私は中心街の方を見る。王宮が衝突を鎮めたのか、それとも教会かジャイロダイン派閥かどちらかの勢力が完全な勝利を収めたのか、聞こえてくる騒音は最初の頃よりは随分と小さくなっていた。
「そういえば初めてだな」
 コチラに近付きながらレヴァーナはどこか嬉しそうに言ってくる。
「何がだ?」
「キミが俺のことをちゃんと名前で呼んだのがだ」
 その言葉に私は彼から視線を外して少し考え込み、小さく咳払いをしてモノクルの位置を直した。
「……そう、だったか?」
「ま、キミも少しは俺の愛を受け入れる気になってくれたということか」
「寝言は世界が崩壊してから言ってくれ」
 コイツに手を貸すと言ったことを、私は早くも後悔し始めていた。

=================報告書====================
■メルム=シフォニーについて■
 Bプラン、サード・フェイズ完了。
 レヴァーナ=ジャイロダインがメルム=シフォニーの完全な引き込みに成功。
 だがもうどうでもいい。戦いは始まった。

■教会側の動向■
 中心街の第三ストリート中部で教会側のドールマスターの五人と接触。そこそこの力を持っていたが、やはり雑魚。八つ裂きにして皆殺しにしてやった。だが満足できない。

■本体側の動向■
 一緒に戦っていた二人のドールマスターの内一人が死亡。逃げ腰だったから死んで当然だ。無様な醜態を晒す奴に生きる価値などない。

■王宮側の動向■
 中立勢力として抗争を鎮めるための行動を開始。
 今回は本体側の方が優勢だったためか、教会側に肩入れしていた状況が見られた。
 理想的だ。鎧兵を鎧ごと叩き潰す時の感触がたまらない。

 以上
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